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ヤマト航海日誌

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それは本気じゃないんですよ。枕の中に市橋達也が生まれて夜にささやくんです。でも一度そうなると、だんだん人と話さずに自分だけで読もうとするようになっていく。すると夜毎に枕の中の市橋の声が大きく大きくなってく。『大丈夫だ。うまくやればバレないさ。うまくやれば。うまくやれば――』。

これはあれと同じですね。〈ザ・コクピット〉の中にあるでしょ、『復讐を埋めた山』ですよ。銃を持てば人は銃になってしまうことがあるんです。美しい獣を見れば魅入られて、引いてはいけない引き金を引いてしまうことがあるんです。

ストーカーもそうですよね。九割方は警察から警告を受ければハッとして、『オレはなんて愚かなことをしてたんだ』となるという。そうはならない本当にヤバイ野郎は滅多にいない。

〈リンゼイ・ワグナー〉の事件も実は彼女はちゃんと連絡を入れるところを見せつけていて、『アナタ、アタシが電話してたの見たでしょう!』と叫んだのかもしれませんね。しかしこれが市橋や出渕裕クラスの鬼畜が相手だと通じずに、『ボクの想いをキミが受け入れてくれればいいこと』と言うだけという――そういうことだったのかもしれない。

しかし、普通の人間は、そこで正気に返るんです。気づいてみれば彼はどうして人の道から自分が外れてしまっていたかよくわからないんです。『あんなのがうまくいくわけないじゃないか。どうしてあれが正しいと思ってしまっていたんだろう』と、首を振って言うしかない。『信じてください。あれは本当の自分じゃないんだ。ボクはあのとき魔物に心を乗っ取られていたのだとしか思えません』、と。

うん、いいんじゃないっすか。それはほんとにそうなんですよ。誰の心の中にもいる市橋達也がいつの間にかに育ってひとつの人格を持ってしまっただけなんですよ。気づきさえすりゃそんなもんスタコラ逃げていくんだから、首を掴んで山に埋め踏み固めればいいんです。そうなればもうその人は大丈夫だからいいんですよ。



「ふうん、なるほど。人は十秒程度なら、真空に投げ出されても生きていられると言われますね。誰も確かめていませんが、そうであるはずと言われています。『2001年宇宙の旅』に描かれたように、空気のあるところにサッと飛び込めさえすればいいのは、よく知られた話なのです。

小牧ノブにテレポートができるなら、和沙結希にもそれができていいでしょう。だから結希はビュビュビュッと基地に戻れて大丈夫ということにしていいわけだ。

て言うか、ノブはその力で、結希を救けられるじゃないか。気づけばそういう話ですよね。『お前、〈力〉があるんなら、結希を救けろ! まだ生きてんだから!』。そういう話になるじゃないか。

それをまったく、なんだあれは。「あたし、わかったような気がする。何だって、もういいのよ」だと?

『よくない! ボケが! ホントに親を連れてこい、親を! お前達のいいかげんな教育が、あそこまでの役立たずを育てたんだ。そういうことだろ、市橋と同じで!』と、アナタはそう言いたいのですね。

一体、何を、わかった気になっているんだ。やっぱりあの女は要らん。北極星に突っ込んで死ね。あの結末はやはり許せぬとわかりました。そのケリはつけましょう。和沙結希はテレポートで基地に戻ったということにします。小牧ノブは消えてくれていいのだから消えてくれていいことにします。

エイリアンが実は何より恐れていたのは、地球人の中にいる瞬間移動者だったわけだ。やはり〈彼ら〉はあの戦いのすぐ後で全面降伏するしかない。地球人は火星にわけなく行けるようになるでしょう。タイタンのメタンとコスモナイトも採れるようになるでしょう。エイクルスを目指し旅立つ未来もそう遠くはない。

榊裕が念願かなって宇宙海賊になるのもそう遠くはない。あいつ、宇宙雉だとか宇宙犀(さい)を密猟して、〈不老長寿の薬〉と称して売る気でどうせいるわけでしょ。ヤレヤレ。〈彼ら〉が地球人類を恐れるのも当然かもしれませんね。

ですがマイク・ウォーレンがいます。きっと彼なら悪を懲らしめてくれるはずです。よかった。『妖精作戦』て、ハッピーエンドだったんですね! なんと素晴らしい結末でしょう。どうしてあれを悲劇と捉えてしまっていたのか、ワタシは自分の愚かさが信じらない思いですよ。

アナタがワタシに言いたいのは、つまりそういうことですね?」



……いや、だからおれはマジメに……。



「『マジメに』ねえ。じゃあマジメに言いますけれど、アナタ、自分が書いて出したものに人を惑わす力があると本気で考えてるわけですか。それは自意識過剰というものじゃないですかねえ。自惚れるのもたいがいにしてはどうかとワタシは言うな」



だってそうとでも思わなきゃとてもやってられないもの。『ヤマト』の勝手なリメイク小説なんてコピペしてもしょうがないでしょ。太陽系も出てないんじゃ話になりもしないしさ。

『フィルムカメラで写真を撮る話も意味がないんだよお。他にないのか。お前が書いたまだ誰も知らないもので、人をアッと言わせられる長編アクション小説だ。そうだ、これだよ。これならまだ、人は知らない。オレだけだ! 読ませろ。読んでおもしろければ、オレのもんとしてやるから! しかしなんだよ、有料だと! ふざけんな! てめえ何様のつもりなんだ。タダで読ませろ。タダで。タダでだ! オレが証拠を残さずにコピペできる形でだ! なあ、こんなのオレ以外ひとりも読もうとするわけないだろ? それがわかんねえのかよ、ボケが!』と。



「アナタ、どこか他所(よそ)のサイトにアナタが書いたオリジナルの小説を有料で出しているわけですか」



ええまあ。



「これを読めば買う人もいるかもしれないと思ってんの?」



うん。



「どこがマジメだ。アナタこそ邪念のかたまりじゃないですか。ワタシはですね、アナタこそ、タチの悪い妄想に心を支配されていると思います。一度精神科の医者に診てもらってはどうですか」


(付記:2016年秋から2017年春にかけて、『敵中』の週毎のアクセス数は常に『セントエルモ』より『ゴルディオン』が五割ほど上回っていた)

(付記2:市橋達也に殺された英会話女教師の名はリンゼイ・アン・ホーカーだが、どこでどう間違えたのか『ワグナー』と書いて長らく気づかなかった。本当にこのログを書いたしばらく前にテレビで〈あれから10年特番〉というようなものをやり、それで事件の詳細を初めて知った記憶だけで書いていたためである。
 しかし〈リンゼイ・ワグナー〉って、そんな名前のおっぱい女優さんでもいてそれと混同したんだろうか。としてもわからないのだが、この際だからあえて直さずこのままとする)



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之