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ヤマト航海日誌

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2016.2.7 〈あの人〉はもう思い出だけど



シャーロック・ホームズにとってA・アドラーは常に〈あの人〉である。映画『アルマゲドン』でスペースシャトルのパイロット、シャープ大佐を演じた俳優の名前はなんていうんだろう。別の映画で顔を見るたび、「シャープ大佐だ」とおれは思って、名を確かめたことも何度かあるのだけれど、すぐに忘れて次の映画で「シャープ大佐だ」の繰り返し。まあ、ただたんに、おれの学習能力が低いだけの話なのだが、おれにとってあの俳優は常に〈シャープ大佐の人〉である。

そんなわけで、またまた『ヤマト』と関係ないけど〈『それ、違法です。』の人〉の話だ。そうなんだよねえ。前々回にCMを別に見直しもしないで書いて、松重豊と間違えたんだが、あのすぐ後でたまたま録画した番組にあのCMが入っていたよ。て言うか、なんかひとつ録ればほとんど必ず入っているな。

で、「あれ?」とも思ったけれど、しかし同時に絶対に、おれはこの役者の名前はたとえ調べても忘れるな。まったく覚えられないだろうなと考えた。いいんだ、別に。名を知らんのはもともとどうでもいいやつだったからなんだから。ただ顔がイカツいだけで刑事やヤクザの役をやってる役者とか、顔がショボクレてるだけで山崎貴に役をもらえる役者の名前をいちいち覚えてもしょうがない。だからあんなのは〈『それ、違法です。』の人〉……長いな、〈違法の人〉にしよう。あのコワモテは〈違法の人〉でいいのである。

で、それであらためて、初めてじっくりあのCMを見たんだけれど、なんだありゃあ。てんでまるきりなってねえじゃん。


   *


「テレビ番組を勝手にアップロードするのはな」

「違法だって言いてえんだろ? いちばん悪いのは――」

「見てるやつだって言いてえんだろ」

「モチ、見てるやつだから」

「取り締まれって言いてえんだろ。だからってな」

「勝手にアップロードするのは違法だって言いてえのか」

「……わかってんじゃねえか」


   *


わかってない。まるきりなんにもわかってない! このふたりはバカが利いたふうな口をほざき合ってるだけだ。問題の本質から五十億キロ離れたところを冥王星とカロンのように互いに回り合ってるだけだ。だからヲタクは社会人じゃなくて準社会人なんだ。

やっぱりいちばん、出渕裕が悪いと思うな。あの〈冥府の王〉を殺せば少しは日本が良くなると思うな。誰か拳銃を持っている人、一発ズドンとあいつを殺しちゃくれませんかね。いや大丈夫。神が許すよ。

悪いといえばエロ同人誌の方が人間としてはるかに悪い。これはとにかくいろいろと悪い。準社会人にはわからんだろうが、一般人の感覚ではそのはずだ。エロ同人誌はわざわざコミケとやらに出掛けてカネを出して買うやつがいるから成り立つ行為なのだから、『買うやつの方がより悪い』とも言えるかもだが、インターネットで無料で見ることのできる画像? それを麻薬やエロ同人誌と一緒にして『見るやつがいるから成立する』というのは明らかに間違った論法だよな。

露出魔のおっさんが「ワシよりも見る者の方が悪いのだ」と言うのと同じくらいおかしい。役人どもはそもそもが、あらゆるものを検閲して違反する者すべて取り締まる制度が欲しくてあのCMをあらゆる番組に入れてんだろうが、それがだいたい大間違いな考えだからなんの効果もあるわけがないさ。

本当にやめさせたいならまずエロ同人誌を取り締まれ、と〈違法の人〉――うーんやっぱりわかりにくいな、〈ソレイホ刑事の人〉にしよう。ソレイホ刑事に言ったらどうなるのかな。CMと同じ困った顔で、「いや、バンダイとか、口では『絶対許さない』と言いながら、実は全部ああいうとこから人材をスカウトしてるので……」なんて言い出しちゃうんだろうか。


「それに、ほら、あれはちゃんと彼らが頭で考えて自分で作ったものでもあるし」

「森雪を性奴隷にするマンガには独創性があると? おれが書いてるものと違って?」

「そうだよ。君のは、君が作ったもんじゃないよね?」

「ははあ……でも、猥褻物でしょう」

「いやそれも、何が猥褻で何がそうでないかというのは警察が判断することではないので……」

「だからエロ同人誌はセーフなの? おれのはダメ?」

「ははは、これは完全なブラックでしょう。バンダイと出渕裕が許すはずない」

「結局そういう問題ですか」

「わかってんじゃねえか」


うん、まあね。わかってはいるよ。出渕裕が気に入るものはいい著作権侵害物で、気に入らないのは悪い著作権侵害物だ。そんなことはわざわざCMで言わなくたって日本国民全員が知ってる……。

だが何より、DVDだ。エロ同人誌はDVDの売上にまったく何も影響しない。だから役所も〈エロ同人誌デカ〉のCM作って『買うやつがいちばん悪い』とか『それ、違法です。』とはやらない。

国が著作権なんてもの本気で保護するわけねえもんな。事の本質が何かくらい、『2199』なんか見るほどのバカでなければわかることだよ。あのCMを作って流す連中の頭にあるのはただカネのことだけだ。

コンテンツの違法アップロードは正規物のセールスに響く。すると税収が減ってしまう。DVD一枚買うたび君が取られる税金は消費税の8パーセントだけじゃない。なんだかんだひっくるめて80パーが税金なのだ。出渕裕が国に納める一千万の税金は百万人のヲタクから十円ずつせしめたもの、DVDの値段にはそういうぶんも含まれてるという意味だがね。

だからCMは、ソレイホ刑事が、


「わかってんのか! 五千円のDVDのうち四千円は税金だ! 十枚四万、百枚四十万、千枚なら四百万で、一万枚四千万。十万枚なら四億円だヨンオクエン! お前らがやってることはそれだけ税収を減らすんだ! 官僚様が遊んで使うためのカネをてめえらは奪ってる! ああ! どうだ! これでてめえがやったことがわかったか!」

「え? いや、そんな。横暴な」

「なんだあ? 平民の分際で! おうおうてめえいい度胸だブタがお上(かみ)に楯突こうってか。いいか大衆はブタなんだ! 権利なんか主張しねえで義務だけ果たしていればいいんだ、クズが! わからねえならオレが今、この場で処刑してやる!」

「そんな無茶な、刑事さん。あんたが今していることは違法だろ!」

「それがなんだーっ!」


 で、BAAAAAAANG! と、このように正直にやれば違法アップローダーとやらも少しは減るかもしれんのに、できないからああいう怖くもなんともないもの流して、かえってタコをズに乗らしてると。あのCMの関係者は全員クビにしろってえの。どう考えてもいちばん悪いのそいつらだもんな。

だってそうだろ。あんなCM毎日バンバン流したら、人はみんな、「そうか、そのテのサイトには、そんなおもしろいものがるのか。ちょっと見てみたいもんだな」という気を起こすに決まってる。かえってネットで違法なものを探すようになっちまうよ。あのCMはやればやるだけ、〈見る人〉を増やすだけだ!
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之