小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

君と見た空

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 

Episode.4 交わした約束



 自分を照らす太陽に目眩さえ覚える。
「……暑いね」
 暑いよぅ、と繰り返しながら小鳥は歩いていたが、ふと立ち止まり葵の顔を覗き込んだ。
「あーちゃん、大丈夫?」
「……当たり前だろ」
 心配そうに見つめてくる彼女の額を指で弾きながら、葵は呟くと、小鳥は顔を顰めて弾かれた額を手で押さえた。
「……痛いよ、あーちゃん」
 そう呟けば、葵の口元が自然と緩む。
 それにつられて、小鳥も柔らかい笑みを浮かべた。
 この暑さの中、出かけるなんて正気の沙汰じゃない、と悠には言われたが、外へ出てきてよかった、と小鳥は思った。
 彼のそんな笑顔が見られるのなら。
「……あのね」
「何だよ」
 笑みを浮かべたまま呟く少女を葵が促せば、彼女は彼の手を取る。
「あーちゃんに見せたい場所があるの」
「俺に?」
「うん、あーちゃんに」
 見てほしいの、と告げる少女と手を見比べてから、葵は頷いた。
「わかった」
「ありがとう、あーちゃん」
 礼を言って、再び歩き出す小鳥と繋いだ手を葵はそっと握り直し、小さく笑った。
 頬を撫でる風が心地よく、目の前に広がる光景に見惚れながら、葵はぽつりと呟く。
「……ここは」
「綺麗でしょう」
 葵の呟きに答えるように小鳥が口を開いた。
 彼女の言う通り、公園から見える空は本当に綺麗で、葵は頷きながら問う。
「……ここにはよく来るのか?」
「うん」
 時々ね、と言って、少女は笑った。
「似てるでしょ?」
「……そうだな」
 小鳥の問いに答えて、彼は空を見上げる。
 ……確かによく似ていた。
 幼い頃、彼女と共に見た空に。
「……時々ね」
 ぽつん、と呟く彼女を葵が見つめると。
 彼女は笑みを浮かべたまま続ける。
「……寂しくなって、家に帰りたいなぁって思う事があるの」
 そう言って、小鳥は俯いた。
 学校に友人はいるし、自分の悩みにも相談にのってくれる。
 何より自分で選んで、今の学校に通い、寮に残ったというのに。
 ……葵に会いたかった。
 唯一、心の許した幼なじみである彼に会って、話がしたかった。
「……そういう時にここに来るの」
 ここから見える空はあーちゃんと見た空に似てるから、と小鳥は呟いて、笑った。
「……小鳥」
「ご、ごめんね、急に変なこと言って」
 葵の声に小鳥は慌てたように付け加えてから、わたわたと歩き出す。
 その姿を見つめていた葵はきつく自分の手を握り締めた。
 小鳥がそんな事を思っていたなんて知らなかった。
 気づかなかった。
 彼女が時折、電話をしてくる時でさえ、そんな素振りを彼女は見せなかったのだから。
「……小鳥」
「なぁに? あーちゃん」
 振り返って、ふわりと笑う彼女に見惚れて、葵はかける言葉を失うが。
 黙り込む葵をきょとんと見ていた小鳥があるものに気づき、声を上げる。
「ね、あーちゃん」
 あれを見て、と小鳥が指で示す先を葵は目で追うと、そこには近々行われる花火大会のポスターが貼ってあった。
「見たいのか?」
「うん」
 見たい、と目を輝かせる少女に、葵は小さく口元を綻ばせて言う。
「一緒に見に行くか」
「本当に?」
 嬉しそうな声を上げる小鳥に葵が頷いてみせれば、彼女は嬉しそうに笑った。
「ありがとう、あーちゃん」
 楽しみだね、といつものように笑う彼女にホッとしながら、葵もまた笑みを深めた。
 それを見て、小鳥も笑みを深め、再びポスターへとやる。
「……悠さんも一緒に見に行ってくれるかな」
「何か言ったか?」
「ううん、何も」
 慌てて、小鳥はポスターから視線をそらし、にこりと葵に微笑んだ。
「あーちゃん、帰ろうか?」
「そうだな」
 頷く葵に手を差しのべられて、きょとんと小鳥は彼を見返す。
「あーちゃん?」
「帰るんだろ」
 ほら、と催促されて、小鳥はふわりと笑って、彼の手に自分のそれを重ねる。
「うんっ」
 嬉しそうに笑う小鳥に葵も微かに口元を緩めて、ゆっくりと歩き出す。
「ねぇ、あーちゃん」
「何だよ」
「何だか昔に戻ったみたい」
 弾む小鳥の声に葵もそうだな、と返す。
「ね、あーちゃん、夕食は何が食べたい?」
 そう尋ねてくる彼女の声は明るく弾んでいる。
 彼女の寮は長期期間の休みの場合、自分達で作らなければならない。
 それが嫌で自宅に戻る寮生も少なくないのだ。
「あたし、頑張るね」
 とはりきる少女に、葵はさらりと答える。
「食べれる物でお願いします」
「何よ、それ!!」
 ひどいよ、あーちゃん、と喚く小鳥の姿に、彼は楽しそうに笑う。
 寮が見えてきたところで、名残惜しく思いながらも、葵はそっと手を離した。
「お前は玄関から入れよ」
「……うん」
 どこか寂しそうに離れた手を見つめて、小鳥は頷く。
 だが、すぐに明るい笑みを浮かべて、葵を見つめた。
「じゃぁ、また後でね」
「あぁ」
 頷く葵に小鳥は笑みを深め、寮へ向かって走り出した。




 続く……
作品名:君と見た空 作家名:*梨々*