小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

月に吼えるもの 神末家綺談6

INDEX|2ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 



雨があがったようだ。少年は粗末な小屋を出て、その透き通るような空気を肺いっぱいに吸い込む。しっとりとぬれた山の緑が目に眩しい。季節は夏だった。土地を潤す美しい天からの雫が、草花の上で露となって光っている。

裸足で踏む、ぬれた草の感触が心地よい。少年は痩せた指先で葉に触れる。冷たかった。夏のほてりを冷やす雨が去った後、西の空に美しい夕焼けが現れる。

(美しいな)

少年に名前はなかった。小さな村はずれの山にある粗末な小屋で、一人ぼっちで暮らしている。

「さだめの子よ」

鈴を鳴らすような声がして見上げると、雫にぬれた大木の上から続けて声が降ってくる。

「おぬしのいもうとがふらせるあめの、なんとうつくしいことか」

子どものような声だが、これは山に住まう木の神だか、山の神だ。姿は見えずとも、孤独に暮らす少年にとっては唯一の話し相手といえた。悪さはせぬ。時折人間の内面を見抜いて意地の悪いことを言うのだが、少年は気にならなかった。

「そうとも、美しいだろう。妹の降らせる雨が、大地を潤し、命を育むのだ。この村は、飢えることを知らぬ」

少年は、雨師と呼ばれる一族の生まれだった。