小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

月に吼えるもの 神末家綺談6

INDEX|13ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 


渇いた空気がのどを焼くようだ。この森に入ってどれくらいの時間が経ったか、もう数えるのもやめてしまった。湿りのない風が時折吹き向けて、森の木々をざわめかせるが、雨の到来を思わせるような匂いは一切ない。

少年は祭壇に座り続けている。

雨は降らない。見張りの衛士も村人も、次々と倒れていく。容赦なく、人間を死へと追い詰める飢えと渇き。

(このまま雨が降らなければ・・・)

朦朧とする頭で考えるのは、やはり妹のことだった。

(みずはめは、どうなるのだろう)

巫女としての役割を果たせなかったとき、あの美しく心優しい妹は、どうなってしまうのだろうか。重い罰を受けるだろうか。二度と日の目を見られない場所へ幽閉されてしまうだろうか。


「なりませぬ!」


森に声が響いた。儀式の最中にひとが入ってくることなど、まずない。森の入り口では衛士が出入りを見張っているはずだ。
渇いてひりひりする目蓋をゆっくり開く。日が落ちそうだ。木々の隙間から菫色の空が見えた。もうすぐ夜か、とぼんやり思った少年の耳に、再び声が届く。

「お黙りなさい」

我に返った。みずはめの声だ。少年の渇ききった心に、一滴の雫が落ちるような感覚。
痛みと泥のような疲労を押して、少年は何とか立ち上がる。向こうから現れたのは、緋色の袴姿のみずはめだった。女官を伴っている。あとから慌てたように衛士が追いかけてくるのが見えた。

「なりませぬ、巫女殿。あめふらしにお会いになることは禁じられておりまする」
「ならぬとは、一体誰に申しておるのです」

心優しい妹の厳しい口調に、衛士が黙り込むのがわかった。