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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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戦争が、若い命を奪っていくこと。
一族のお役目が、己の人生を生まれながらにして奪っていくこと。
その二つが重なり合う時代にあり、若い穂積は自分の存在価値を見失っていったのだ。戦地から戻らない友人たち。赤紙の届かない特別待遇の自分。なんのために生まれてきたのかと、そんな怒りでいっぱいだった。

命はもっと尊ばれるべきだ。誰のものであっても、国のためとか、家のためとか、そんなことに使われるべきではない。生まれてきたからには、自分のために使うべきだと思った。他者のために犠牲にしていいものではない。美談のために散らしていいものではない。

若い穂積は、そう信じていた。国のために命を捧げることが尊ばれていた時代に、相反する考え方だ。

「瑞、おまえはそんなわたしの弱い魂を叱咤したな。現状に満足できぬのなら変えてみせよ、と」

自分がなんのために生まれてきたのか。この命に、意味があるのだと信じたかった。瑞の言葉で、諦めていた心に再び命が宿った。

「一族の血に縛られるだけの人生を変えるために、生まれてきた意味を知るために、わたしも伊吹と同じく、須丸文庫に篭ったのだ」

なぜ、神末(こうずえ)の歴史が始まったのか。どうして自分がこの役目を継ぐ必要があるのか。

その疑問に答えられる者は、一族の中にはいなかった。穂積の先代でさえ、役目に縛られ、疑問に思うことさえなかったのだ。

「穂積、おまえは歴代のお役目の中でも稀有な考えを持った人間だった。言うなれば、突然変異のようなものかな」

瑞が静かに語り始める。