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俺をサムシクと呼ぶサムスンへ(上)

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第5部 おわび行脚



ほんのご愛敬だろ

「俺がいながら
見合いだなんて
もうしばらくの
辛抱だってば
お袋だって
じき折れる」

一言
冗談言っただけ
そんなに目くじら
立てるなよ

人生最後の
見合いだっていうなら
いざ知らず

1回ぐらい
ご破算になったところで
そこまで
血相変えなくたって

わかってるってば

ちょっかい出したのは
この俺だ
魔が差したんだ
悪かった

ホテルのロビー
飛び出すなり
むくれて歩く
あんたを追って
俺はひたすら
ソウルの街じゅう
かれこれ半日
おわびの行脚

これっぽっちで
へそ曲げて
この不景気のご時世に
うちやめるって?

馬鹿げてるにも
ほどがある

わかったってば
こうしよう

お詫びを兼ねて
給料アップ
ええい おまけだ
正社員昇格

採用直後に
こんな厚遇
ふつう絶対ありえない
スタッフたちには
内緒だぞ

でもさ
俺が少々
ちょっかい出して
ぶち壊れるような
見合いなら
遅かれ早かれ
ダメになるって

とりあえず
あの手この手で
歓心買おうと
してみたものの

あんたという
パティシエを
失うのが惜しいわりには
なだめてんだか
火に油 注いでんだか

もちろん
俺のおわび行脚は
効果なんか
まったくゼロで
あんたの機嫌は
悪化の一途で

だけど
そんなことは
どうでもよかった

懐かしい
イブのホテルの
あのロビー

目と鼻の先のブースで
8度目の
見合い相手に
内心うんざり
しきってた俺

偶然見かけた
あんたの見合いは
渡りに船
格好の暇つぶし

ついつい図に乗り
調子に乗って
演技に熱も入りすぎ
挙げ句の果てが
このザマだけど

どこぞのアホな令嬢に
顔ひきつって
息が詰まって
死ぬぐらいなら

五月晴れの街ん中
あてなんかない
あんた任せの
おわび行脚

俺は断然
こっちを選ぶね

空は高くて
並木の緑は
まぶしくて
あんたの挙動は
奇想天外
おまけに発言は
愉快痛快

俺が一言
まぜっ返すたんびに
ふり返っては
突っかかる
あんたの仏頂面
拝みながら

俺はすこぶる
ご機嫌だった

ラテ代
俺に払わせといて
当てつけがましく
自分の切符しか
買わずに乗った
ロープウェー

「見合いごときに
何でそこまで
目の色変える?」と
乗るなり俺は
冷やかした

「果てしない
大海原の人生だから
舟だって
1人じゃ心細いけど
2人で行けば怖くない
だから 
どうせなら
2人で行きたい

それに
1人より2人で
漕ぐほうが
どう考えたって
はるかに速い

だから
早く相棒を
見つけたい」

こともなげに
あんたは言った

30そこらの独身女が
悟り開いた
坊さんよろしく

酸いも甘いも
噛み分けた
偉そうな珍説
ぶちあげて

だけど
何でだろう
妙にすとんと
胃の腑に落ちた

珍しく
この俺が
茶々入れもせず
鼻で笑いもしなかった

ロープウェー降りるまで
あんたの珍説
頭の中で
何度も唱えた

ゲームセンターで
分捕った
でっかいでっかい
“ブタぐるみ”

後生大事に
小脇に抱えて
日暮れの屋台で
安酒あおって
あんたは延々
説教垂れた

99.9%は
このワンマンショー
見たさが理由で

それでも
0.1%は
オジャンになった
さっきの見合いの
罪滅ぼしに

神妙に
あんたの説教
聞いた俺

変てこりんといえば
実に
変てこりんな図

「見合い
ぶち壊した詫びだ
俺が相手を
探してやるから
理想のタイプ
言ってみな」

酔ったまぎれに
水を向けたら

「キスが上手な男」

そう来たか
うらやましいご身分だ

宵の口から
街の屋台の
焼酎ごときで
クダ巻いて

だけど
意外にもそれは
話の枕

あんたは
うつろに笑んで
つけ足した

「彼です」って
親や姉たちに
堂々と紹介出来る人
「彼女です」って
親兄弟や友達に
堂々と紹介してくれる人

俺はたまらず
「それっぽっち?」

大層な返事を
期待していた
わけでもないが
とにかく内心
ずっこけた

見かけに似合わず
ずいぶんとまた
単純というか
純情というか
あまりに見事な
肩透かし
上げ足とる気も
消えうせた

シラフのときすら
どっから見たって
絵に描いたみたいに
一本気なあんたが

人目も恥じらいも
あればこそ
今にも
酔いつぶれかかってなお
そこまで
力説するからには

世の中
そんな簡単なこと
嫌がる男もいるんだな
まんざら嘘でも
なさそうだ

それにしたって
酒ぐせ悪いにも
ほどがある

足腰立たない
酔っぱらい
おぶってやったのが
運のつき

握ったブタぐるみは
バチと化し
俺の頭は
逃げない木魚

お経よろしく
拍子とりとり
イブの男を
こきおろした

俺は
そいつじゃないってば

言うだけ無駄か
殴りたきゃ殴れ

どっちみち
飲ませた俺が
馬鹿だった

タクシー乗り場が
遠かった

ほんの一瞬
イブの男に
同情も湧いた
これじゃ愛想も
尽き果てる

舌打ちしたって
始まらないけど
相手は女

泥みたいに
眠りこけてちゃ
まさか道ばたに
置いても帰れず

結局 俺は
まるまる一晩
ベッドを
提供させられた

わかってるって
酔っ払いには
罪はない

シラフのうちに
あんたの住所
聞いとかなかった
俺がうかつで
馬鹿だった

弁は立つ
けんかっ早い
酒ぐせは最悪

俺が雇った
パティシエは
ソウルじゅう探したって
お目になんか
かかれないほど

三拍子そろった
逸材だった