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#9.遠い記憶


#9.遠い記憶



恭一  「(アルファードを見て)わ、カッケー!」
裕司  「キョーイチ、行くぞ」
恭一  「機材車まで揃えるって、どんだけ金持ち」

裕司だけを見据えて近づくひめ。
ひめを無視して歩き出す裕司。
遅れて裕司のあとを追いかける恭一。

ひめ  「待って」

裕司の手を掴むひめ。

裕司  「あのさ、僕、君たちとは・・・」

裕司の記憶が蘇る。


 **  **  **  **  ** 


民家の路地の入口に、無防備に倒れているネコ。
裕司が近寄ると、一応牙をむいて威嚇するネコ。
ぐったりと横たわりその場から動けないでいるネコ。
ネコの体毛に油汚れと血の痕がある。
公園のベンチに座る裕司の足元うろつくネコ。
ネコが小さく鳴く。
裕司の足元にすり寄るネコ。
ネコを抱き上げて膝に乗せる裕司。
裕司の膝の上で気持ち良さそうに休む体勢を整えるネコ。


 ◇    ◇    ◇    ◇


振り向いてひめの顔を見る裕司。
裕司を見つめるひめ。

ひめ  「話があるの・・・」



尾道市栗原川河川敷
土手に機材車アルファードが停まっている。
恭一がアルファードの前で、真凛、綾乃、うららに囲まれて上機嫌。
少し離れたところに、ひめと裕司が並んで土手に座って川を眺めている。

ひめ  「いい川だよね、この川。映画とかにもよく登場するんだよ」
裕司  「・・・で、何、話って?」

立ち上がって裾についた砂を払うひめ。

ひめ  「ゆーじ、って呼んでもいい?」
裕司  「・・・」
ひめ  「ゆーじ、加藤桐恵さんを探してるんだよね?」
裕司  「えっ?(キョーイチを囲む真凛たちに目を向ける)なんだ、全部筒抜けか」
ひめ  「勝手に悪いとは思ったんだけど、あたしたちで桐恵さんのこと探した」

一瞬興味を示すが、平静を装う裕司。

ひめ  「そして、見つけたの・・・」
裕司  「えっ?」

驚いてひめを見上げる裕司。

裕司  「えっ、どこで?どこに桐恵さんはいるの?」

司の隣に座り直すひめ。

ひめ  「知ってるよね、ゆーじ?」
裕司  「知らないよ。なんで僕が知ってるのさ」
ひめ  「本当は知ってるの。事実を受け入れたくないだけ。受け入れたくないから探し続けているの」
裕司  「知ってる?事実を? 何のことかさっぱりわからない。受け入れたくないって、何を受け入れたくないって言いたいの?」
ひめ  「磯村寛治は練り物屋の跡取り息子。加藤桐恵は町医者の娘だった。ふたりは親の反対押し切って結婚した。あの美しい厳島神
社で式を挙げた。でも何か月も経たないうちに寛治に召集令状がきて、寛治はフィリピンの戦地に出兵する」

ぼんやり遠くを見つめる裕司。

ひめ  「絵に描いたような碧い海に囲まれた緑の島の上空を、アメリカの飛行機が何百機も飛来してきた。米
軍の爆撃は容赦なく続いて、ジャングルは火の海と化した。そして磯村寛治はそこで戦死した」

ひめを振り返る裕司。

裕司  「いや、違う。死んでない。戦死なんかしていない。僕は生還した」
ひめ  「君・・・」
裕司  「日本に帰ったら何もかも変わっていた。広島は焼け野原で、桐恵はどこにもいなかった・・・」
ひめ  「君、ゆーじ? それとも磯村寛治?」
裕司  「(我に帰って)えっ、僕、何か変なこと言った?言ったよね」
ひめ  「言ってない」

立ち上がって頭を?きむしる裕司。

裕司  「僕、最近ずっと、どうかしてる。変なんだ、記憶が混乱して。あ、君(ひめを指す)。君に会ってからだ。君らに会ってから
ずっとだ。あ、原因は君だ。だから会わないほうがいいって言われたんだ。ああ、会うんじゃなかった、話さなきゃよかった。あ”ぁ”
ぁ”ぁぁぁぁぁ」

土手を駆け下りる裕司。

ひめ  「言ってないってば。ねぇ、待って!」

土手下の河原で意味をなさない叫び声をあげる裕司。

ひめ  「ゆーじ!」

土手下の裕司を心配気に見つめるひめ。
ひめの肩をポンとたたく真凛。

真凛  「ひめ、男ってのは、大雑把に見えて、実はとっても繊細なんだ。ひめにはまだわかんねぇだろうけど
な。ま、ここは俺に任しとき」

土手を滑りおりる真凛。
三角座りしている裕司の隣に胡坐を組んで座る真凛。
真凛を一瞥しただけでダンマリを決めこむ裕司。

真凛  「女ってのは、意外とサバサバしてる。それに較べて男はめんどくせぇ。そう思わないか?」
裕司  「・・・」
真凛  「死んだ女のこと、いつまでもひきずってる」
裕司  「・・・」
真凛  「死んだあとも死んだ女のことを思ってる。今のお前みたいに」
裕司  「僕は死んでない。生きてる」
真凛  「お前の中の磯村のことだよ。正確にはイソムラの感情の記憶」
裕司  「感情の記憶?」
真凛  「男ってのは、ほんとめんどくせぇ。忘れるってことを知らない」
裕司  「何のことだか、全然わからない」
真凛  「ユウジ、お前、キョーイチに、俺が男だって言ったそうだな」
裕司  「・・・言ったような気がする」
真凛  「ほとんど当たりだ。お前に磯村の感情の記憶があるように、俺にも、ある男の感情の記憶がある。お前の場合は死んだ桐恵さ
んのことを忘れられない、磯村って野郎がたまに現れる程度だろ。俺の場合は、ある男が始終居座ってる」
裕司  「桐恵のこと、そんな風に言うな」
真凛  「桐恵さんがどうなったか、お前が一番知ってるはずだ」
裕司  「桐恵は死んでない」
真凛  「ユウジ! っか磯村かわからないけど、いい加減目を覚ませ!」
裕司  「桐恵はまだ生きてる」
真凛  「事実を受け入れろ」
裕司  「断る」
真凛  「心を開け。閉ざしている感情の記憶を呼び覚ませ」
裕司  「(聞こえないフリ)・・・」
真凛  「そしたら、今より楽になる」
裕司  「あんた、何様だ。そんな手には乗らない」
真凛  「チッ。プライドだけは一人前だな。まあいい。俺の話を聴け」

裕司が落ち着くのを待って話し始める真凛。

真凛  「俺は、いや俺の中にいる男は南條礼太郎というジャズピアニストだ。昭和30年代の横浜界隈で、トリオやカルテットで演奏
活動をしてた。今でも憶えている。横須賀のキャンプだ。俺の弾くアドリブが凄すぎて、ざわついていた会場がシーンとなった。俺が弾
き終わると、まだ他の奴の演奏が続いているのに、万雷の拍手が起こった。鳴りやまなかった。俺には才能があると思ったよ。思いつく
というより、無意識のうちに指先がメロディを奏でてくれるんだからね。おかげで女には相当モテた。しかし待てよ。このメロディは本
当に俺が考えついたものなのか、とある日疑問が湧いた。スイッチが入るまでは全くの三流ピアノ弾き。それが、いったんスイッチが入
作品名:フリーソウルズ 作家名:JAY-TA