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アキちゃんまとめ

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三千世界の刀を放り 君とダンスがしてみたい-爆発せよ!


その日、長谷部は出社した時から上機嫌だった。
隣のカフェの店員である長船(おさふね)光忠が、眼帯で隠れていないもう一方の目をおかしそうに細めていようが、三日月がいつものように長谷部のデスクにやってきてひたすらドーナツを貪り食っていようが、長谷部の機嫌はとても良かった。
それもその筈。
今日は長谷部が待ちに待った、とある人物の握手会イベントの日なのである。
開始日は十八時から。場所は代々木。都内一等地にある長谷部の勤務先からは三十分もかからないため、早番の定時で上がれれば余裕で間に合う時間である。

「(あぁ主……! 先日のショーも素晴らしゅうございました……!)」

長谷部が現在、主と呼ぶ人物はただ一人。小野田アキ、その人である。
長谷部に言わせてみれば「運命的な再会」を果たしたアキであったが、いかんせん相手は売り出し中のファッションモデル。長谷部のような社畜とは常ならば接点すらありはしない。しかし長谷部はアキを誘拐犯から助けたことで、その両親と仕事をした過去がある。そこから縁を離すものかとしがみつき、アキのファンクラブ会員の一桁台ナンバーを手に入れたのだ。
あとから聞いた話では、ティーン向けファッションモデルとしては異例の、一桁台が男性でほぼ埋まるという珍事に発展していたらしいのだが、そこは割愛。

そして今日、そのアキのイベントとあって、長谷部は浮かれに浮かれていた。
時計が午後四時を指し、さぁそれでは退社しよう……と長谷部がいつもより気合の入れたスーツの襟元を正して立ち上がった時、それは起こった。
けたたましく鳴る内線電話を上司が取ると、みるみるうちに青ざめていく。長谷部がいぶかしげに眉をひそめたと同時、上司は受話器を持ちながら思わず、といった様子で立ち上がった。

「なんですって!? この近辺に爆弾が!?」
「「「「「「えぇっ!?!?!?」」」」」」

周囲が一斉にざわめき、声の洪水となってオフィス中を飲み込む。長谷部は完全に退社するタイミングを逃し、デスクの前で鞄を持ったままフリーズしてしまった。
しかしここで混乱に乗じて退社を……! と意志を固めた長谷部の心を打ち砕くように、上司の言葉が続く。

「厳戒態勢だ! 今から警備会社と警察による一斉確認が行われる! それが終了するまで社内外ともに出入り禁止だ!」

ざぁっ。まさに血の気が引く音とはこのことだ。
待ってください! と長谷部は慌てて抗議するが、上司は聞く耳を持たず、とにかく上部からの命令だと言って長谷部にオフィス内に残るように指示した。

「そ、んな……あるじ……」

蒼白になった顔色を心配して女性社員たちが長谷部に声をかけてきたが、その返答もおざなりだ。こうなったら早く解決するか、はたまたいたずらであると判明してもらわなければならない。

「しかし爆破予告とはなぁ……」
「(よりによって何故この日なんだ! お前が爆発しろ!)」
「しかも爆弾が二千個だって?」
「(明らかに嘘だろうその数は!!)」

イライラしながらも耳は同僚たちの話す内容を拾っていく。
あぁ、神も仏も信じてはいないが、今なら祈ってやってもいい! と長谷部が祈りの形に手を組んだ時、おもむろに携帯が鳴る。刺々しい声を隠さずに取れば、それは三日月からの電話だった。

「ーー! おい三日月! おまえーー」

まさか社長に言われれば長谷部を帰さないわけにはいかないだろう、と長谷部が続けようとする。しかしそれはほかでもない三日月に遮られた。

『あなや。残念だな。しかし安心するが良いぞ、お前の分まで俺が主の手を握ってきてやろうではないか』

はっはっは、という朗らかな笑い声を聞いて、長谷部は静かにデスクのペン立てにあったボールペンを握りつぶした。同時に、狙いすましたかのようなタイミングで通話も切れる。会社の外に、パトカーのサイレンが聞こえ始めていた。

「どうでもいいから早く俺を帰してくれ!!!」

長谷部の悲痛な叫びはオフィスの騒がしさに吸い込まれ、三日月の元まで届くことはなかった。



※なんでもいいから帰らせてくれ!!!!!!!!
2016/05/19
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ