小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

アキちゃんまとめ

INDEX|52ページ/75ページ|

次のページ前のページ
 

三千世界の刀を屠り 主と添い寝がしてみたい-4.5


「これはこれは、珍しい」

三日月が近侍に選ばれるのは久方ぶりのことだ。彼らの当番は、名の書かれた木札が下げられた番表に左右される。それは朝一番で本丸の主であるアキが選び、下げるものだ。だが、ここ最近でとみに近侍に選ばれることが多かったのは長谷部と薬研だろう。その最たる理由としては二人がアキに自ら志願したからだ。「やすとも」という異分子がアキに関わるようになってから、彼らは自らを人間と勘違いしているのでは、と三日月が思わずにはいられないほとの熱心さで主の命を待っていた。
夏も終わりに近付いた夜。縁側を歩けばそこには一匹だけで彷徨う蛍がふらりと舞っている。仲間に置いて行かれたのか、それとも自分が望んだのか。人間が見れば、風流の一言で終わるのであろう。以前、清い水が戦場でどれだけ大切かを石切丸が加州へと説いていた。相手は、聞き流していたようだったが。
夜の闇に紛れるようにして主であるアキの自室へと辿り着く。障子の外に控えていた燭台切へと目くばせをして入れ替わる。今夜の番は、三日月宗近なのだから。

「邪魔をしよう」
「三日月さん」

勝手知ったる旧知の仲のように三日月はアキの部屋へとけろりとした顔で入っていく。
アキもそんな三日月の性格は知っており、咎めることもしない。
既に就寝の準備を終えていたのだろう。アキは手慰みのように撫でつけていた髪から手を離し、鏡台へと布をかけた。布団の周囲には蚊帳が張られており、三日月は早く入りなさい、と薄布の向こうへとアキを押しやった。
アキが掛布団の上に座ったまま、三日月へと口を開こうとする。しかし、三日月は敢えてそれを遮った。

「さて、主、何かこの爺の知恵でも必要になったかえ」
「…なんでもお見通しなのね」

アキは苦笑して足を崩す。斜めにずらされた下肢は一本の燭台の灯りに照らされて生白く光っている。三日月とアキと燭台で三角形を作る様にして腰を据えたこの現状では、まるで縄張りを争っているかのようだ。

「…あっちの本丸のコトなんだけど、その、大丈夫かしらって」
「ふむ、あの小童の本丸か」

アキは直接的な表現は避けたが、三日月にはおおよそ伝わったようだ。わざとらしく顎を撫で、左上へと視線をずらす。

「それは戦闘が不得手な刀が多いということか?」
「…」
「それはある種、仕方がないことだ」
「どういうこと?」
「我らは、主の強い感情に呼ばれる。我らが生まれる際、必要なのは迷いではなく決断だ」

アキは三日月の言葉を静かに聞いている。

「主はまず、ここが現実であると認識し、自らの真実を追い求めたいと願った。それにより、贋作を嫌い紛い物を断つ蜂須賀虎鉄が作られた。
次に自らを犠牲にしても傷つけたくない者のために刀を呼んだ。その願いは完全には聞き入れられず、逆にそうした自己犠牲的な献身から命を落とすことを危ぶまれ、結果、主人の事を傷つけることができない薬研が作られた」
「…」
「対するあちらは根本がちがう。疑心暗鬼の塊だ。だからこそ自己を肯定して欲しいと願い、それに惹かれた加州が呼ばれた。
そして奔放に振る舞えば振る舞うほどに我らの疑心を買うことに内心では気づいておる。そしてその代替えとしてを求めた結果、乱が作られた」

すべては導きだ。抗えない。
静かにそう締め括ると、三日月は改めてアキの顔を見やる。
呼ばれたときから変わらない。意思の強い、それでいて奥底に寂しさを秘めた目だ。

「…何があろうと、我らの主はお前一人だ。安心しなさい」

三日月は、敢えて荒北の持つ残りの二振りについて言及をしなかった。

「(鯰尾は構わぬ。あれは記憶を消失しているだろう、あの主の心の虚無に惹かれて作られた刀。過去に焼けたとはいえ、確かに存在している……しかし岩融。あれは三条の作にて三条のものに非ず。
武蔵坊弁慶が振るい、数多の刀を巻き上げたその薙刀は、しかして本当に実在していたのかも分からぬ。我らは人間の意志、願い、そして欲望を食らった権化。俺と石切丸は主の時代にも現存しているものであり、本体が確実に保管されているためにこの身でいることも容易い。
だが、あの男がもしも、ありもしない幻想を追い求め続けるのであれば、あの本丸には『あり得ない刀』ばかりが増えることになる……)」

その時に、精神が刀剣男子に引きずられることもなく生きていけるものだろうか。三日月は自分の想像する最悪の結果を振り払うように、アキへと薄く笑いかける。

「さ、もう寝ろ。明日も早い」
「ウン。ありがと」

ふぅっと三日月が唯一の灯りを消せば、アキは大人しく布団の中へともぐりこみ、しばらくしてから寝息を立てはじめた。

しばらくして、荒北は新たな刀を鍛刀する。
三日月、石切丸、岩融に続く三条派と呼ばれる刀の一派。その中でも、口伝えの伝承上での刀として、石切丸と同様の社へ祀られていたとされる小狐丸。
不確実な存在を、果たして荒北は信じきることができるだろうか。三日月は口を噤み、小狐丸に何事も無いかのように容易く話しかける。

沈黙は、金である。



初出:2015/8/8
加筆修正:2015/09/16
(さにわの感情と願いによって出現する刀剣男子に差が出るという裏設定)
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ