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アキちゃんまとめ

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三千世界の刀を屠り 主と添い寝がしてみたい-3


目が覚めた荒北がまず真っ先に目にしたのは、少女の横顔と青空の色をした髪の毛だった。

「……誰だよ」
「!」

少女は荒北の言葉に文字通り飛び跳ねる。それから横になっている荒北の顔をのぞき込むように身を乗り出してまくしたてた。

「大丈夫?痛いところナイ?私のことわかる?」

荒北は全てにおいて首を振った。今の状況はさっぱりわからないし、鳩尾はきりきりと痛むし、何より少女に見覚えは無かった。首を振ったことで少女の顔色がさっと変わったようにも思えたが、すぐに口を開いた。

「私の名前は、お……アキ。アキって呼んで?あなたは『やすとも』でショ?」

荒北は不信を抱きながら仕方なく頷いた。どうも頭がぼんやりとしており、どうしてこんな歴史の資料や修学旅行でしか見たことのない場所に居るのかわからなかった。ピチチ、とどこかから鳥の声がする。風に乗って届くのは青草の香りだろう。
アキは荒北の顔を覗き込み、まじまじと見つめた後、ほっとしたように居住まいを正した。一度はぴんと伸ばした背筋を、すぐに申し訳なさそうに丸め、ぽつりぽつりと話し始める。

「あなたは、えっと、未来の人たちのもくろみに巻き込まれたの」
「ハァ?」

SFじゃあるまいし、と荒北は思い切り顔をゆがめた。しかしアキは至ってまじめな顔で続ける。

「信じられないかもしれないケド、本当なの。すぐに説明者が現れて、やすともに命令してくると思う」
「ハッ、そんな大層な出来事に巻き込まれてるってか」
「そうよ」

アキの表情は固く、今にも泣きそうだった。

「逆らっちゃダメ。理不尽だし、すごく、頭にくると思うけど」

今は我慢して、とアキは腹の底から掠れた声を出した。正座をし、膝の上で握られた手は微かに震えている。しかし荒北はそれには気付かなかった。

「てめぇがその差し金じゃナァイ?」
「……私の名前は、アキ。やすとものこと、少し知ってる」

返事にはちぐはぐな言葉を落とし、アキはゆっくりと席を立った。障子の向こうに消えていった空色は荒北の網膜に残像を残したが、すぐにそれもかき消えていく。

「――これはこれは、お目覚めになられましたか!」

場違いに明るい声。ぞ、と背筋に走った不愉快な電流の意味もわからぬまま、荒北は布団から上半身を起こした姿で振り向く。そこには底の見えない瞳の、しゃべる狐がいた。

「ここから先はわたくしめと当人の話となります。どうぞ先人の審神者殿はお休み下さいませ。長らくの介護でお疲れでしょう、人の身には休息も必要でございます」

ころり。笑った狐の裏で何かが転がっていく。それは不安か、猜疑か。どちらにせよアキは退室せざるをえなかった。



「やぁ、どうだった」

石切丸(いしきりまる)の言葉に、アキは無言で下を向いた。どうにかぎりぎりのところで荒北の命を奪わずに本丸へ連れ帰ることができたが、彼にはこれから新たな審神者となる道しか残されていなかった。今頃はこんのすけに信じられないような事実をつきつけられながら、必死に理解しようと努めていることだろう。否定と拒否は、すなわち政府への謀反と同義なのだ。

「あの男、やっぱり大将のことは覚えていねぇな」

アキと荒北が居る部屋の外、障子の向こうで番をしていた薬研がそう告げれば、ふん、と誰かが鼻を鳴らす。

「大将、そろそろ教えてくれたっていいじゃないか。あの男はどこの馬の骨で、大将が命をかけるほどの男か?」

薬研の言葉に、アキはこくりと唾を飲んだ。恐れを言葉にするのは憚られたが、アキに残された刃があるというのならば、それこそまさに彼らなのだ。

「彼は、ここに来る前の、私の恋人。でも、その記憶は失ってる。私のことも忘れてる。私が彼に出会ったのは、彼の今の年齢よりもずっと後だから」

ゆっくりと言葉を選び、アキは荒北の説明をする。婚約者、とも夫、とも言わなかったのは荒北を束縛したくなかったからだ。配偶者であり情を交わす者と知れば、刀剣男子たちの目も変わるかもしれない。

「ふむ。それにしては随分と生臭い。あの男、あまりこの世にて良い影響を受けてはおらぬよ」
「ウン。だからできるだけ、彼には負担をかけたくない」

アキの言葉に、刀剣男子たちが視線を一挙に集中させる。

「彼が渦中に行く前に、私が終わらせるの」

長い裾を翻し、アキは本丸の祭事場へと向かう。刀剣男子に霊力を与え、強化することや新しい武具の錬成を行うためだろう。
長い裾を捌くのはお手の物だ。こんなものはファッションショーで着たドレスの生地よりずっと軽い。ランウェイを歩くあの重さに比べれば、胸を張り、一人で無いことの誇らしさを掲げればずっとたやすい。

「いいねぇいいねぇ、威勢がいいのはいつだって戦の華さ」
「君、主を置いて突っ走らないでくれよ。あくまで僕らの本分は主の命に従い、かっこよく敵を屠ることだからね」
「はてさて、給料の分だけでも働いておこうか。いつまでになるか分からぬがな」
「なに、贋作共とは違うのだ。我々に何の不足が?」
「主、あなたの命こそ我らが存在する理由。どうぞ、お言葉を」

ぐるりとアキが振り向く。彼らが今までの歴史上の主は決して持たなかっただろう水色の髪の毛をゆらし、彼らに向き直る。

「ついてきて、」

わたしに。
可憐な唇で紡いだ、おどろおどろしい戦への勧誘。刀剣男子たちは静かに首を垂れ、誰ともなくこう告げた。

「――御意」



※この時点でのパーティは、薬研・石切丸・三日月・光忠・蜂須賀・長谷部。
(2015/05/07)
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ