小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

アキちゃんまとめ

INDEX|41ページ/75ページ|

次のページ前のページ
 

無知の卵


「やすともぉ……」

ぐずぐずと鼻をならして涙を拭うアキの腕の中に、小さな卵がある。荒北はそれを視線で確認してから、自然な動作で「どうしたノォ」とアキを引き寄せた。
ここは荒北がアキと暮らすため、大木に寄せて作ったログハウスだ。横ではなく縦に広がった家を作るため、何人もの建築屋が匙を投げようとも荒北は妥協をしなかった。総北との境目ともなる大木は、いつでもアキが空を思い出せるようにと思ったからだ。最初に出会った時から数年の時が経ったとはいえ、まだまだアキは幼く、荒北の後をついてきてはその名前を呼ぶ。
ハーピーたちの羽根で作ったクッションたちに体を預けながら、荒北はアキを膝に乗せる。

「んで、どーしたってノォ」
「赤ちゃんがね、生まれてこないの……」

アキは両手で包んでいる卵に涙を落としながら、弱々しく言った。

「やすともがくれてから、ずぅっとあっためてるのに……」
「そっかァ、ずっと温めてくれてたんだ。あんがとネェ」

荒北はアキを横抱きにする姿勢で、自身の胸に顔を寄せさせた。出会ったころは変色してばかりだった髪色も、今ではすっかり鮮やかな空色に落ち着いている。それだけアキの中に荒北の存在が浸透したということなのだろう。

「あー、でも赤チャンが出てこないなら、駄目だったか」
「だめ……赤ちゃん、しんじゃったの?アキが、だめだった?」
「アキちゃんが悪いんじゃないヨ」

アキは泉田が編んだというレースのケープで卵をうやうやしく包んでいる。荒北の手にすっぽりと収まってしまうだろう小さな卵を、それはそれは大事に扱っていた。
荒北はアキがどれだけ自分との子供を欲しがっているか知っている。だからこそ、こうして何も生まれない卵を渡す。アキはそのたびに「もっとやすともに似合うお嫁さんになれるようにがんばるから」と泣くのだ。その泣き顔を見るたび、荒北は自分がどれだけこの小鳥に愛されているのかを再確認する。
歪んでる、と、言われたことがある。責めるわけでもなく、旧友はただそれだけを荒北に突き付けた。
だが、どれだけ歪んでいようが、アキが望むのは荒北なのだ。騙されていようが蕩かされていようが慰められていようが、今のアキは荒北の与える知識でできている。

「また、卵作ってくるから。そしたらあっためてネェ」

ウン、と頷くアキの手から卵を取り、アキの鼻先にキスをする。ぽい、と放り投げられた卵はどこかで腐っていくことだろう。そして最後には中身すら乾燥して空っぽになる。「キスをするときには目を瞑ること」と教えられたアキは、荒北の手で卵がどうなったか知る由もない。
荒北は、アキが卵生でないことを知っている。親である巻島から聞いたのだから間違いない。哺乳類と同じく、腹の中で我が子を育てる種族だということも知っている。
アキだけが、それを知らない。真実を知らずに、また次も疑いなく荒北が持ってきた無精卵を温めるのだろう。
アキの無知さがたまらなく愛おしく、荒北は白いワンピースの裾から手を差し入れた。
籠の鳥は、これからの行為の意味することすらまだ知らない。




※神獣版ゲス北さん×白痴アキちゃん
2016/02/12
作品名:アキちゃんまとめ 作家名:こうじ