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夢と少女と旅日記 第6話-3

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 説明会で皆さんが話していたことは、如何にして儲けるかという話ばかりでした。中には、エターナルドリーマーの方のことを金のなる木と表現する人までいました。正直言って、ショックでした。
 けど、私は知っていました。みんながみんなそうじゃないだろうけど、お金のことしか考えていない大人の人たちがいるんだって。
 私は今でも思い出します。あれは私がお笑い芸人として、とある劇場の舞台に立つようになってから半年ほど経ったときのことでした。
 その日の舞台はいつも通り。私は先輩芸人の前座として、ショートコントで場を盛り上げようと頑張りました。所詮前座ですから、まだ来場していないお客さんも多くいるみたいでした。
 とは言え、私としては悪くない感触だと感じました。前座としての役目は果たせたと意気揚々と楽屋へと戻ることにしました。私の仕事はそれでおしまいでしたけど、先輩の芸を見て学ぶのも大切なことだと思い、それまでは楽屋でのんびりしようと思ったんです。
 そこへ、座長がやってきました。座長は誰かの名刺を片手に、私に向かってこう言いました。
「サンデーくん、前座お疲れ様。お客さんの反応も上々だったみたいだね」
「はい、ありがとうございます、座長」
「それでね、ここからが本題なんだけど、今日のお客さんの方に雑誌の記者の方がいたようでね。君にインタビューをしたいそうなんだ」
「はあ、インタビューを……、えっ、私にですか!?」
「それなりに有名な雑誌のインタビューだよ。喜びたまえ」
「ええっと、もう少し詳しくお話を聞かせてもらえますか? なんで私なんかに……」
 まだ駆け出しのお笑い芸人に雑誌の記者がインタビューだなんて、何かの間違いじゃないかと私は思いました。そんなに人気があるわけでもないのにと。しかし、私は座長の次の言葉で納得し、そして落胆しました。
「なんでも“若干11歳の美少女芸人”として特集を組みたいらしいな。君が乗り気ならグラビア撮影も考えているそうだ」
「美少女……? グラビア……?」
 それは、私の芸について特集してくれるわけではないということだと、即座に理解しました。
 でも、これもお仕事だからと、普通のインタビュー写真だけを載せてもらうこと条件に受けることにしました。私のインタビューが雑誌に載ると、お客さんの数は3倍以上になりました。
 けど、誰も私の芸なんか見てくれなかったと思います。舞台に立つと、客席からは「かわいい」と声援がよくくるようになりましたが、私が求めているのはそんなことじゃありませんでした。
 昔からのお客さんなら、純粋に芸を見に来ている人もいたでしょうけど、その声は埋もれてしまって、私はなんのために舞台に立っているのか分からなくなってしまいました。だから、座長に相談したんです。
「なんだって? 誰も自分の芸を見てくれなくなったって?」
「はい、なんだかずっとアイドルみたいな扱いで……」
「それの何が不満だと言うんだね? おかげで劇場の売上も右肩上がりだよ」
「いえ、売上とか、そういうことじゃなくって」
「大体、元々君の芸なんか誰もいなかっただろう。いたとしても、一部のお笑いマニアだ。私が君を雇ったのだって、子供の芸人というのが話題になると思っただけだ。何を勘違いしてるのかね?」
 座長にそんな風に言われて、私は凄くショックでした。先輩芸人にも相談しようかと思いましたけど、私のことばかりが話題になるので、みんな面白くなさそうな顔をしていたのでやめました。
 私はもうここにはいてはいけない。そう私が思うのにも時間は掛かりませんでした。私は半ば強引に座長に辞表届けを押し付け、劇場を去りました。何か怒鳴られた気がしますけど、もう覚えていません。
 私はもう劇場のお笑い芸人じゃなくて、ただの旅芸人です。私は私の力だけで、私の芸を広めていくんです。それが私のやりたいことだから、もう何も後悔なんてありません。
 お金儲けなんかより大切なものはいくらでもあります。それが私の信念なのです。劇場から去って1年経った今でも、それは変わっていません。