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メドレーガールズ

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new!浦中ガールズ ナンバーワン



 先週の興奮が冷めやらぬまま、私たちは次の大会に進出することになった。第一泳者ののんたんが次の日タイに飛び立つことになっていたため、会場には顔を出していたけど試合に出る事はなく、リレーは代わりに真美ちゃんが出ることになった。
 この大会でも「チームがひとつになること」がどれだけ大切かということを思い知らされた。決して手を抜いて臨んだ訳ではない大会、しかし結果は惨々たるものだった。代役が悪かった訳では全然ない。先週見せた一瞬の煌めきは、二年半をかけてやっと作り上げたものだ。今回は準備が足りなかったといえばそれまでだろう。だから完全燃焼したとは言えないが、後悔はなかった。そして私たちも昨日で正式に引退することになった。浦風中学校女子水泳部は新しく生まれ変わる――。

 そして今日、我らが戦友であるのんたんがタイに向けて飛び立つ。家から空港までは遠いけど、両親に見送りに行きたいとお願いしたら、先週の戦いぶりを見ていたからなのかすんなりOKが出た。
 律っちゃんも真由も見送りに行けるとのことで、どうやって行こうかと部室で会議をしているところに水嶋先生がやって来た「そういうことなら私が連れて行ってあげる」ということで旅立ちの朝、私たちはそれぞれにオシャレして学校で待ち合わせることにした。真由が制服以外でスカート履いてるのを初めて見たし、律っちゃんの頭の団子も二つに増えている。私はというと服選びのセンスは自他ともにないのを認めているので、お姉ちゃんにコーデしてもらった。私服で学校に来るのはちょっと変な気分だ。
「先生、みんな揃ってますよぉ」
「いつ出発するんですかぁ」
「早くしないと遅れますぅ」
私たち三人は集合の時間を過ぎても出発しない先生を急かした。
「まあまあ、もうちょっと待ってよ」先生は慌てた様子もなく時計に目を遣った「まだ揃って、ないのよ」
「どういうこと?」私たちは顔を見合わせた。
「番号、イチッ」
「ニッ」
「サンッ……、先生、全員揃ってまーす」
律っちゃんの号令で一列に並び点呼を取った。だけど先生は遠くを見てあまり本気で聞いてくれない。
「もう一回番号!」
「えっ?」急な先生のフリに律っちゃんは戸惑いながら元気よく答えた「イチッ」
「ニッ」
「サンッ」
…………、
「シッ!」
少し離れた後方から聞こえて来た声に私たちは一斉に後ろを振り返った。縁のある眼鏡、つばの大きな帽子にサラッとした長い髪、夏色のワンピース姿ののんたんが後ろに立っているではないか。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「のんたん!」
「空港に行ったんじゃなかったの?」
「えへへ」はにかんだ笑顔が見えた「お父さんに『友達と一緒に空港まで行っていい?』って聞いたらOKしてくれたの」
 のんたんは私たちの間をすり抜けて先生の前に立った。
「先生、全員揃いました」
のんたんらしい元気な声で報告した。
「よしっ、じゃあ行こうか」
 どうやら先生はのんたんが来るのを待ってたみたいだ、それから先生は車のある校舎裏へ歩き出したので、私たちもその後ろを付いて歩き出した。私たちもそうだだけど、学校でジャージ姿でない先生を見るのはものすごく変な感じだ。
「のんたん、間に合うの?飛行機」
「外国行くのに手続きいっぱいあるんじゃないの?」
「大丈夫だよ。手続きはお父さんがしてくれてるから」
「なーんだ、サプライズあるなら言って欲しかったな」私は前を歩く先生の背中を見て真由に小さく呟いた。
「でも言ったらサプライズの意味ないし」
「あはは、それもそうだ」
 私たちの聖地であるプールの横にある駐車場にとめてある先生の小さな車に乗り込むと、車はゆっくりと校門を出た。夏の日光に熱されて、車内がとんでもなく暑い。一番体の大きな真由が助手席で、残りの三人が並んで後ろの席に座った。四人で一緒に出掛けるのはこれで最後、この時間を大切にしようと考えれば、暑い事には変わりないけれど、暑さはそれほど気にならなかった。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔