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メドレーガールズ

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  玖兎



「えー、皆さま。本日はお暑い中お集まり下さりありがとうございます。浦風中学校水泳部の覇権奪還を祝してささやかな会を行いたいと思います。司会進行、食事担当の新宅玖蔵です。よろしくどうぞ」
 真由の家でもあるお好み焼き屋の『玖兎(きゅうと)』で家族みんなが集まって、今日の祝賀会兼のんたんの送別会をすることになった。会場で初めて会った私たち四人の両親がいろんな話をするうちに親どうしですっかり意気投合したようで、急遽このような段になった。それぞれのきょうだいも、水嶋先生も仕事を終えて少し遅れてここへ駆けつけた。店内には総勢17名、貸し切りにするには席を少し余すけど、おめでたい事なので思い切った決断をしたようだ。真由のお父さんもゴキゲンで慣れた口調で会の進行をしている。
「大人は飲み放題、子供は食べ放題、ほいで私とウチの看板娘たちは焼き放題ですんで好き放題言うてくらはいな」
「よろしくお願いしまーす!」
 揃いのエプロンを着けた真由と真美ちゃんは紹介を受けて元気よく挨拶し、両手にコテを持ってポーズを決めた。
「それではでは、カントクから乾杯の音頭を……」
「香ちゃん、ヨロシク!」 
「だから『香ちゃん』ってのは止めなさいって」
 廉太郎君とお姉ちゃんに冷やかされ先生が立ち上がった。名前で呼ばれた先生は照れ笑いをしながらお姉ちゃんたちに怒っている。
「えーっ……、浦風中学校水泳部の先輩として一言」先生は私たち一人一人に目を遣った。
「みんな、ありがとう!」
 そこで先生の言葉が詰まった。上を向いて、何か言おうと考えているが言葉にならないみたいだ。いつもと違う様子に私は戸惑っていると、そばにいた廉太郎君が拍手をすると店内に拍手がこだました。
「何言おうか忘れちゃった、とにかくおめでとう!乾杯!」
「かんぱーい!」
 最後にいつもの表情を取り戻した先生が声をあげると、大人たちはジョッキを高々と上にあげ、店内はいつも話し声と笑い声で賑やかな玖兎になった。私たちはまだお酒の飲める年齢ではないけれど、今まで努力してきたことが実を結んだことで十分に酔うことができそうだ、酔ったことはないんだけど――。 


作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔