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メドレーガールズ

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  浦風中学校女子水泳部


 中間試験が終わり、制服のブレザーが邪魔になってくる頃、私達の季節が始まる。冬の長い間、私達はこの日を待ちつつ厳しい基礎トレーニングに耐え、しっかりと気力と体力を養って来た。神聖なる練習場の掃除は先週に済ませ、準備は整った。冬眠を終えて目覚めた動物のようにこれから私達は溜めた力を一気に開放し、短いシーズンを戦う。これで三回目、今年で最後の勝負だ。これまでは先生と先輩の指示に従って動いていたが、今年は私達が主役、盛り上がるも下がるも私達三年生次第だ。それだけに責任と期待が入り混じったものが否応なしに私達のテンションを上げた。

「整列、礼!」
「よろしくお願いしまーす!」

 キャプテンの号令でおろしたての水着に身を包んだ15人の部員は一斉に飛び込んだ。既に体験済みの上級生も、初めてプールに入る一年生も水の冷たさにほとんどが悲鳴を上げた――。これから毎日始まる厳しい練習、こうやってはしゃぐのは初日の今日だけだ。

 かつては強豪校と言われた浦風中学校の水泳部。10年くらい前までは色んな大会で賞を取ってきたみたいで、職員室の前にある盾やトロフィーがその栄光を証明している。それもかつての話で、今では生徒の数に比例して部員の数も減り、男子は三年前に無期限休部となり、女子のみになった。先生の話では当時の半分くらいになったそうで、私達三年生も四人しかいない。

 号令をかけたのはキャプテンの志生野律子(しおのりつこ)、呼び名は「律っちゃん」。私の幼馴染みで、同じ社宅の隣に住んでいる。四歳の頃から小学校卒業までスイミングスクールに通っていて、水泳歴が一番長い。チームの中で一番の「男前」で、見た目はかわいいのに性格が厳しく、クラスの男子も律っちゃんには逆らわない。去年の部長選出の時も本人を除いて満場一致で決定した。
 部員の中で一番の長身なのが新宅真由(しんたくまゆ)、水泳を始めたのは律っちゃんより後だけど、今も地元のクラブチームに所属している我がチームのエースだ。恵まれた体格、髪は短く、一見して男子と間違えられる事が度々あるが、実は好きな男子がいて、その子の前では急に大人しくなる、意外とお茶目さんだ。
 副キャプテンを努めるのは市田 望(いちだのぞみ)、あだ名は「のんたん」。私に似ておっとりしているが、私達の中では一番冷静で頭脳明晰だ。感情に走る律っちゃんや真由をいつも絶妙のタイミングで抑えてくれる。フォームやペース配分など、頭で考えて泳ぐタイプだ。
 そして私、蓮井帆那(はすいはんな)。この中では一番チビで、実力も存在感も他の三人には遠く及ばない。強いて言うと冬の基礎トレで、陸を走ると一番速い事と、いつも笑って場を和ませるのが得意なくらいで、水泳とは直接関係がない。クラブを決めるのも律っちゃんの誘いがあったからで、自分で言うのも何だけど優柔不断である。

 私達浦中の水泳部は三年生が代々種目別のリーダーを努めることになっている。律っちゃんはバタフライ、真由は自由形、のんたんは背泳、そして私は平泳ぎ。四人しかいないからキレイに別れた。結果的に直接ライバルになることがないので、私達は仲良しでいつでも一緒だ。
 今年の目標は、私達四人で一位を獲ることだ。地区大会ながらレベルが高く、地区内には真由が所属するクラブの生徒が隣の中学にいたり、温水プール完備の私立中学があったりで、個人でもチームでもその壁は毎年大きく、長年すべての種目で一位から遠ざかっている。今年こそは勝つ、それも四人で……、私達は水中で今年の健闘を誓いあった――。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔