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メドレーガールズ

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  みんな、バラバラだよ……


 律っちゃんがメドレーリレーで優勝したら水泳を辞めるって聞いたのはついこないだのことだ。いつものベランダ会議で、大汗をかいた律っちゃんが私を呼び出して「重大発表」すると言うから聞いてみるとその内容にビックリした。律っちゃんの言う事に理由があるのはわかるけど、大会はこれから始まるのに辞める事を考えているというのには理解が出来なかった。二人だけの話ということにはなっているけど、不器用な私は態度で隠すのは難しいようで、練習に集中できないのは周囲の人が見れば明らかなようだ。
 フォームも、呼吸も、タイミングも、すべてがしっくり来なくて、水に顔を浸けると得体のわからない何かが私を見ているような気さえする。今までコンスタントに出した自己ベストもそれ以来全くだ。

 勝てば律っちゃんは水泳を辞める――

 私が今打ち込んでいるその先の事のはずなのにその事が頭から離れない。勝ちたいという気持ちは変わらずに持っているつもりだが、私はどこに向かって走っているのか分からなくなっていた。
 調子の上がらない私は、タイムの事は考えずにとにかく距離を泳ぐことにした。嫌な気持ちを忘れる、いや、逃げるかのように、それでも前向きな意思で、せめてスタミナを付けようと考えただひたすらレーンを往復した。泳いだ距離は裏切らない、大会まで日は限られているので、今できる一番効率のいい練習をしようと考えた。人一倍の努力をしないと他のみんなの足を引っ張ることはわかっているのに、思うように形に現れないことに焦りと自分に対する怒りが私の体をさらに重くさせているようだ。

「帆那ぁ、どうしたのよ!」
 声をかけたのは隣のレーンでバタフライの練習をしていた真由だ。私の泳ぎを見ていた真由は、私の調子が良くない、そして投げ遣りになっているのがわかるみたいで憮然とした顔だ。普段厳しい真由がいつも以上に気のない私に怒っているので、体格差もあって私は余計に縮こまってしまう。
「わかる?」図星を突かれた私は苦笑い「何か――、調子が上がらないんだ……」
 その理由を律っちゃんのせいにしたくない。本当に勝ちたいのならそんなの理由にならないはずだ。
「大会まで日がないんだよ。早く修正しなきゃ」
そう言う真由も私の目には焦っているように見えた。何かに追われているような、いつもと少し違う様子だ。真由にも何かあったのだろうか?
「ほらぁ、二人とも!タラタラしないッ!」
「はいッ!」
 お互い何か言いかけたところに水嶋先生のカミナリが落ちた。結局私は邪念を打ち消すかのように距離を泳ぎ続けたが、終わってみれば目標としていた距離には程遠いものだった。

 リレーのメンバー発表があってから、私を除くみんなのタイムは上がって来ている。だけど余裕がないのかどこかギスギスしていて、一つになっている感じがしない。その雰囲気が私に更なる苦痛を与えていた。

作品名:メドレーガールズ 作家名:八馬八朔