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後宮艶夜*ロマンス~皇帝と貴妃~【後編】

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「あのなぁ、お前、女好きのタラシとはあまりに酷くないか? そりゃ、客には愛想よくするのは商いの基本だろう。名誉のためにいうが、俺はお前と所帯を持ってからは一度も浮気はしてない」
 そこで、芳華が法明を睨んだ。
「あら、じゃあ、結婚する前はどうなのよ?」
「そりゃ、俺だって一応男だし」
「ということは、誰か別の女のひとと付き合ってたこともあるの?」
 やぶ蛇だと、法明が頭を抱えた。しかし、次の瞬間、嬉しげに言う。
「もしかして、芳華、お前、妬いてるの?」
 芳華は真っ赤になった。
「冗談、誰が妬くもんですか」
「紅くなって、ほっぺたが熟れた林檎のようだぞ」
 法明は笑いながら人差し指で芳華のふっくらした頬をつついた。
「お前って、本当に変わらないな。人妻にななっても、母親になっても、出逢ったときと変わらない」
「どうせ進歩がないんです」
 そっぽを向くと、法明が更に笑う。
「変わらないところが可愛いんだよ」
 そのひと言に、芳華は更に紅くなる。臆面もなくそういう科白を言えるところが法明らしいところだ。
 芳華は彼が仕事に出ている間、どこでどうしているのかは知らない。朝に行商に出て、夕刻に帰ってくる彼の仕事ぶりを見たのはただ一度だけ、初めて彼に出逢ったときだけなのだ。
 だが、先刻の言葉とは裏腹に、芳華は彼を信じていた。彼が夜毎芳華を抱きながら?愛している?と囁いてくれる言葉は嘘じゃない。
「青琴は頑張ってるようだな」
 ふと話題を変えた法明に、芳華は頷いた。
「どの子も一生懸命やってる。でも、残念だわ」
「何が?」
「貧しい民として生まれた子はどんなに頑張って読み書きを憶えても、そこから先に進むことはできないもの。法明、私は思うのよ、今の操では朝廷の官吏はすべて上流貴族や名門の子弟ばかりでしょ。たとえ幾ら傑出していたとしても、私のところに通っている子どもたちの誰かが官吏になることはできないわ。でも、それは間違っている。貧しい民の子でも国が学校を作って、お金がなくても学べるようにするべきよ。優秀な人材が育って、彼らを官吏に登用する制度ができれば、ひいては国のためにもなる。今のままの世襲制度だけでは、正直言って、無能でも親の威光があれば官吏になれるわ」
 法明が唸った。
「流石は宰相どのの息女だけはあるな。随分と難しいことを考えてるんだ」
 芳華がハッとして法明を睨んだ。
「父のことを持ち出すのは止めて。私はもう郁家とは縁の切れた身なんだから」
 法明が何か言おうとして、口をつぐんだ。
「誰でも学べる官立の学校を作れば、操はこれからもますます栄えるわ。そんな判りきったことを誰も皇帝陛下に進言する官吏がいない今の現状も憂うべきことかもね」
「国が金を出して学校を作る、か」
 法明が呟く。芳華が頷いた。
「そうそう、そして、貧民でも試験を受けて優秀な成績を修めれば、官吏になれる道を作ると良いわ」
 法明が力強く頷いた。
「それ、良いかもしれない。そうだな、皇帝が学校を公費で建てて、誰でもがそこで学べるようにすれば良いんだ」
 芳華が吹き出した。
「でも、所詮、下々の私たちがそんな大層な話をしても、雲の上にお住まいの皇帝陛下には届かないわ。法明ったら、大真面目な顔で話してるけどね」
「皇帝に誰もそんなことを言うヤツはいないさ。朝廷の臣下たちは皆、自分の保身や栄達で頭が一杯だからな。それに、貧しい民でも学校に行けて官吏に登用される道が開ければ、困るのはヤツらだ。自分たちだけが甘い汁を吸えなくなるんだから」
「そうね、法明の言うとおりかもね」
 頷く芳華の髪を法明が撫でる。
「お前は俺に色々なことを気づかせてくれる。お前がずっと側にいてくれたら、俺はどんな茨の道でも歩いていける気がするんだ。芳華は俺の宝だよ」
「何よ、大袈裟ねぇ。小間物を売り歩くのが茨の道なの? それは商売も大変でしょうけど」
 大仰な物言いに笑ってしまうけれど、くれた言葉そのものは芳華にとって心底嬉しいものだった。そこで芳華も話を変えた。
「それよりも、私が教えてるところをずっと見てたでしょ」
「ああ」
 彼は事もなげに頷く。
「芳華は本当に子どもが好きなんだなって、つくづく感じながら見てた。何か、そういうときのお前の顔って生き生きとして眩しくて、見てられないくらい綺麗だ」 
「それって褒め過ぎ。そんなに褒められると、逆に恥ずかしくって、穴があったら入りたい。法明みたいに綺麗な男の人にそこまで褒められても、実感が湧かないもん」 
 法明が意外そうな顔をする。
「何言ってるんだ。お前は十分可愛いぞ、最近は俺に抱かれてますます色っぽく綺麗になってきた。やはり、女は男に抱かれるようになると、変わるな」
「ちょ、ちょっと法明、昼間からこんな場所で恥ずかしすぎることを言わないで」
 と、法明の美しい貌に意地悪な表情が浮かぶ。
「そのくらいで恥ずかしがるな。昨夜はあんなに大胆に乱れただろう」
 揶揄するような口調。
 芳華の白い頬に朱が散る。昨夜、二人は数日ぶりに身体を重ねた。以前は法明は夜毎、しかも一夜の中に何度も求めてきて芳華を啼かせたが、最近は流石に毎夜は手を伸ばしてこなくなった。
 それが昨夜はこれまでにないくらい二人共に烈しく燃えた。法明は大きくなった芳華のお腹を気遣いながらも、挑むように幾度ものしかかってきて、毎度ながら芳華は甘すぎる快楽地獄に最後は?許して?と泣き出すことになってしまう。
 お腹がせりだしてきたので、今までのように芳華が下になるのが難しくなり、最近は芳華が大胆に脚を開いて法明にまたがる。最初、その体勢を取るように命じられたときは恥ずかしさのあまり、芳華はまた泣いてしまったほどだった。昨夜も烈しく下から彼に突き上げられ、最後には意識を手放した。
 後で二人、お腹の子どもは大丈夫かと身重の身にはあまりに烈しすぎた営みを真剣に心配したのだけれど。愛する男に十分過ぎるほど愛されて、芳華は今朝、身体だけでなく心も満ち足りて目覚めたのだった。
 教室として使っている室の戸締まりをし、芳華は法明と並んで家に向かった。小さいけれど、今では大切な我が家だ。芳華はここで法明の子を産み、新しい家族と家庭を営んでゆく。そんなささやかだけれどこの上なく幸せな日々がこの先も続いてゆくとこの時、信じて疑っていなかった。
 二人が細い道から大通りへと出てきたその時、突如として行く手を塞いだ人影があった。いや、それは一人だけではなく、わらわらとどこからか湧いて出たように数人の黒い影が法明と芳華の前に立ち塞がる。
「貴様ら、何だ!」
 法明が鋭く誰何し、警戒するような視線を向ける。彼の瞳がうっすらと紫に染まった。
 行く手を塞いだのは屈強な数人の男たちで、芳華にはその揃いの鎧甲姿に見憶えがあった。父郁文昭の私兵だ。
「あなたたち、何のつもりでこんなことをするの?」
 ここは文昭の娘らしく毅然とした態度を取るべきと判断し、芳華は凜とした声を張り上げた。
 と、兵たちの中のひときわ大柄な男がスと芳華の前に進み出て膝を突いた。