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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 しかし数歩もいかないうちに、突然アルベルトは足を止めた。ぶつかりそうになったゼノは、大げさによろめきながら立ち止まる。別に、扉の前には何もない。押し黙ったまま動かないアルベルトを不思議に思いながら、ゼノは問いかけた。
「アルベルト、どうした?」
「――誰か来た」
 簡潔な返答に、ゼノは戸惑いながら周囲の気配を探った。確かに、廃屋の外に誰かいる。それも、『誰か』どころではない。これは多分、相当な人数だ。一体何があったのだろう。お祭りでもあるのか?
「――誰が来たんだ?」
「分からない。でも、これは・・・・・・」
 その時、凄まじい音と共に、廃屋が吹っ飛んだ。
 元から建っているのもやっとな建物だったが、突然の攻撃で根元からバラバラに破壊された。木片が飛び散って転がり、鋭く尖った木片のいくつかは爆風に押されて次々と地面に突き刺さる。柱代わりの丸太が軽々と宙を舞い、巻き上がった砂埃がそれに追従した。さらには礎石までもが吹き飛ばされ、地面に落ちてぱっくりと割れる。ほんの一瞬のうちに、廃屋は竜巻にでもあったかのように完全に破壊されてしまった。
 そんな中にあって、ゼノとアルベルトは怪我一つ負わなかった。どうやら廃屋が吹っ飛ぶ瞬間、アルベルトが防御壁を張ったらしい。廃屋を破壊した爆風と、飛び散った木片がぶつかっていたら、大変なことになっていただろう。アルベルトに先に行って貰ってよかった・・・・・・と安堵しつつ、ゼノは何が起こったのかと周囲を見回した。
 そして、事態を把握してぴたりと静止した。
 吹き飛ばされた廃屋の周りを、輝く銀色の鎧が囲んでいる。鎧が日の光を反射して、目が痛いほどだ。彼らの手にあるのは、鎧と同じ銀の槍や剣。胸には五芒星の紋章。同じ模様の旗が、風にたなびいている。その中でただ一人、杖(メイス)を担いだ若い男だけが、銀の刺繍が施された黒いローブを身に着けていた。
 悪魔祓い師だ。
 廃屋を囲む教会の守護騎士達。それを率いる悪魔祓い師。これは大変まずい状況だ。いつの間にか、ゼノとアルベルトのことが教会まで伝わっていたのだ。以前聞いた話ではアルベルトはこっちで指名手配されているらしいし、ゼノはミガー人。間違いなく密入国扱いになる。漂流したせいだなんて、彼らは聞きやしないだろう。このままでは、二人そろってお縄になってしまう。強行突破するしかないか。そう考えて、ゼノは覚悟を決めた。
 問題は、あの悪魔祓い師だ。騎士だけでも多勢に無勢なのに、悪魔祓い師の実力は騎士より上。しかも彼らは神の力で炎や雷を操ることができるらしい。先程廃屋を破壊したのもこいつだろう。ゼノはさすがに悪魔祓い師と抗戦したことはないが、要するに魔術師を敵に回すようなもの、厄介なことこの上ないものだと考えている。はたして、強行突破できるだろうか?
「よぉ、アルベルト。久しぶりだな」
 すると突然、悪魔祓い師は、知り合いに呼びかけるような気安さで、アルベルトにそう言った。アルベルトの方は険しい顔をして、悪魔祓い師を見つめている。この二人は知り合いなのか? 二人を見比べながら、ゼノはそう思った。
 この分だと、ロクな知り合いではないのだろうけど。
 重い、沈黙が降りた。風が吹き抜け、砂埃を舞い上げ、小さな木片が転がっていく。教会の旗がたなびき、悪魔祓い師の白いローブがゆらゆらと揺れる。そしてその風が収まった時、アルベルトによって、沈黙は破られた。
「ウィルツ・・・・・・」
 アルベルトが呟くように名前を言うと、悪魔祓い師ウィルツは小馬鹿にしたようにニヤリと笑った。