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ihatov88の小咄集

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13引っ越しの必需品 5/7


 この度初めて故郷を離れ独立することになった僕は、独り暮らしに必要なものを買い揃えこれから始まる明るい未来に心を躍らせた。
「テレビ、冷蔵庫、電子レンジ……よしよし」
何度もメモを確認しては引っ越しのトラックにものを次々と放り込む。
 それでも何か忘れているような気がして、そこで既に独り暮らしの先輩である実兄に電話をした。
「もうすぐ出発なんだけど、独り暮らしに必要なものって他にない?」
「ああ、そやなあ。お前、便座カバー用意したか?」
「便座カバー?」
「おう、あれなかったら辛いぞ。冬冷たいし、座るたびに寂しいぞ。食い物忘れても便座カバーは忘れるな!覚えとけ、それだけはゆめゆめ忘れるな」
「ありがとう、兄さん」
 僕は業者の手をちょっとだけ止めて、近くの雑貨屋で便座カバーを買って、幌を閉じる直前のトラックに放り込んだ。
「さらば、我が故郷、ありがとう、ふるさと!」

 翌日、下宿に荷物が積み降ろされ僕の新生活が始まった。最初にすべきは便座カバー。食事忘れてもそれは忘れるな。これは兄の教えだ。
「さて……、っと」
僕は便座カバーを握りトイレの扉を開けた。その光景を目にして手にしていたカバーが自然に地面にハラリと落ちた。 

 
   うち、和式やんか……

作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔