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ihatov88の小咄集

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24情熱の国 6/7


 マドリッドの闘牛場のすぐ裏には牛の処理施設と精肉屋、そしてレストランがある。シュールな話ではあるがこれこそまさに産地直送。さっきまで死闘を繰り広げた猛牛が早くも食卓に並ぶのだ。レストランがあるからその前座として闘牛があったのか、闘牛があるから周辺でこのような施設ができたのか、それはニワトリタマゴの問題である。

 レストランの店主であるホセはこの道一筋の三代目。物心ついた時から闘牛を見るのが大好きで、マタドールと猛牛が繰り広げる命がけのショーが終われば仕事に取り掛かる。興奮覚めやらぬ観客たちの満足感を舌で覚えていただくことがホセの至福の時だ、ついでにお財布も潤う。
「これがさっきまで闘牛場で戦っていた牛のステーキか?」
「絶品だね、これは」
「闘牛も見れてステーキ食べて、最高のショーだ」
レストランの中では先程の死闘が大きなモニターで流され、客のテンションは大盛り上がりだ。
 店がおわると、ホセは売り上げを数えてニンマリする。


 ある日、闘牛場から店に戻ってきたホセは仕事の準備を始めた。
「さあ、今日は忙しくなるぞ!」
急いで服を着替え、商売道具を順に並べて準備をする。店の看板は下ろしたままだ。
 しかしそんなところに観光客が店にやって来て、準備中のホセに声をかけるとホセは答えた。
「すまないね、今日は休業なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、また次にしてくれないか」
「残念です……」
 ホセはせっかくやって来た客に謝っては追い返し、急いで法衣に着替えて闘牛場の裏にある教会に向かって走り出した。

「さあ、仕事だ仕事だ……」
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔