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ihatov88の小咄集

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27チューして 6/11


 彼女を初めて部屋に呼んだ。テーブルを挟んで正面に座る彼女、それだけでも心音が聞こえそうなくらい緊張している――。

「チューして」
「えっ?」彼女の言葉に男はドギマギした「いきなり、なんですか」
本心を隠しているつもりだが声が大きい。
「だからぁ、チューしてって。寒いから熱くして欲しいの」
「そ、そうか?」
男はその言葉で寒いどころかじゅうぶん熱い、いや、暑いだ。
「じれったいなぁ、もう」
「じれったいって、そりゃビックリするよ」
「そっちがしないなら、私がするよ」
そういって彼女は立ち上がって、私の方へ身を乗り出した。延びる腕は私の頭の後ろへ。そのまま回されると思われるこのシチュエーションに思わず男は目を閉じた。普通逆だろう。

「もう、ホントに……」

    ピッ!

男はいつまでたっても何かに触れた感触がしないので目を開けると、彼女は元の位置に戻っている。
「あなたの後ろにあったよ、これ」
彼女が手にしているのはエアコンのリモコン

「『中』にしてって言ったのに、リモコン目に入らなかった?」
「ああ、中ね。中、チューじゃなくて中ね」
「何ネズミみたいなこと言ってるの?この部屋寒くない?」
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔