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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「それが心配なんだよ。アリスはユリウスとデキてるし、正直テオとだって怪しいだろ。さらにはロチェスだ。良くも悪くも社交性の塊みたいな女に友達がほとんど居ないオデット。・・・どうだ?」
「不釣合いってことですか?アリスもそう思っていると?」
「そういう考え方をするからお前は応用が効かないっていうんだよ。アリスは友達と自分との釣り合いなんて考えないだろうさ。だけどお前は考える。そこに歪ができるんだ。そしてそれは最終的にお前の心を壊す。『自分なんてアリスにとって必要ないものなんだ』最終的にはそこに行き着く。傍から見たらそんなことないし、アリスだってそう思っていないのに手前勝手な結論を出して勝手に壊れる。そういうのが一番始末に負えない。」
「・・・よく、わかりません。やっぱり気持ち悪いってことですか?」
「違う。オデットに勝手に思い込まれて勝手に壊れられたら俺達はどうしたらいいんだって話だ。自分の思いを自分の中だけで処理しきれる人間なんていない。それはアリスだって同じだ。だからオデットやユリウスやテオには色んなことを話してるだろう。でもオデット。お前はどうだ?アリスの事で悩んだ時にそれをアリスに話せるか?」
「・・・・・・。」
「宗教じみている所が嫌いっていうのはそういうところだ。信仰は救いだけど、信仰に救われていればいるほどその信仰の対象を失った時のダメージは計り知れない。・・・お前はアリスだけじゃなくてもっと周りの人間に目を向けて、辛い時や頼りたい時は頼るべきだと思うぞ。少なくとも俺はそうされて嫌な気はしないし、実行するのは難しいかもしれないけどテオだって嫌な顔はしないはずだ。せっかく縁があって知り合ったんだからお互い助け合っていこうぜ。」
「頼る・・・ですか。」
「ああ。頼れ。」
「・・・今の言葉、覚えましたからね。忘れたりとぼけたりしたってちゃんと覚えていますから。」
「むしろ絶対忘れるな。」
「・・・はい。」
 背中を向けたままのその返事を聞いて、シエルは苦笑して先ほどまでのように横になる。
「あの・・・ですね。私も。その・・・」
「ん?」
「私も、シエルさんのこと嫌いじゃないですから。昨日嫌いじゃないって言われて、嬉しかった・・・です。」
「そっか、そう思ってもらえるなら真面目に話した甲斐があったな。どうする、まだ眠くないならもう少し話でもするか?そこそこ長い付き合いなのに、俺達はまだお互いのことよく知らないだろ。」
 シエルがそう言って身体を起こすと、オデットも身体を起こして対面に座る。
「いいですけど、私の話はつまらないですよ。暗い話ばっかりですし。」
「俺だって14の時にテオに国を追い出された話とかばかりだからな。大して面白くもないし、明るい話でもない。」
「・・・思い出したくないような嫌な事とかも話すので、シエルさんの隣に行ってもいいですか?多分泣いちゃうと思うんで、その時は慰めてください。」
「ああ、そういうのは大歓迎だ。なんだったらそのまま俺の隣で寝てもいいんだぜ。」
 シエルは冗談めかしてそう言うが、オデットは怒るでもなく黙って自分の麻布を持ってきてシエル麻布の横に敷くと、シエルの隣に腰をおろした。
「えっと・・・オデット?」
「シエルさんの言うとおり、友達って大事だと思います。たしかに友達もほしいです。・・・でも、私だって女ですよ。私の事を真剣に考えてくれる殿方がいたらそういう気持ちになっちゃいます。・・・シエルさんは私じゃ嫌ですか?」
「・・・嫌じゃない。というか、好意を向けられるのはすごく嬉しい。むしろオデットこそ俺でいいのか?」
「シエルさんで、じゃないです。シエルさんがいいんです。・・・あんまり変なこと言わせないでください。」
 オデットはそう言って自分の頭をシエルの肩に預けた。
「でもな、オデット・・・。」
「相手にしてもらえていない女の人のことは気にしないので大丈夫です。むしろ忘れさせてみせます。」
「ああ・・・そう。俺ってやっぱり相手にしてもらえてないのか・・・。」
「彼女自身がアリス相手に笑いながら話してたんで間違いないです。私もその時はプスーって笑っちゃいましたけど、今は同情を禁じえません。」
「・・・好意を寄せてくれる可愛い女の子がいることを喜べばいいのか、長年思い続けた女性に笑い話にされていることを悲しめばいいのか。俺は一体どんな顔をしたらいいんだろうな。」
「笑えばいいんだと思いますよ。」
「そか・・・じゃ、笑うか。」
 そう言ってシエルは喜びと悲しみが入り混じったような笑顔を浮かべて肩に乗っているオデットの頭を撫でた。




「もう少し思慮深い方かと思っていましたが。」
 南アミューの兵士達との合同演習に意気揚々と出かけていこうとしていたエドの背後に、いつの間にかクロウが立っていた。
「まさか北と戦う気満々になられてしまうとは。」
「いや、もちろんできればそんなことしたくないんだよ。したくないけど、やらなきゃいけないならちゃんとやらなきゃ。そうすることが結局一番犠牲を少なくする方法だったりするわけだしね。」
「『強い相手がいるといいなあ』・・・でしたか。」
「うわ、盗み聞き?趣味悪いよクロウ。」
「ソフィア殿に聞いたのですよ。まったく、クロエ様もエーデルガルド様もやる気満々で、いつもならこういうことに気を回さないソフィア殿が一番冷静とは。いささかグランボルカの未来が不安になりますな。」
「クロウって、慣れるとズケズケ物を言うよね・・・。」
「エーデルガルド様であればここまで言っても大丈夫という信頼の証ですよ。さて、それはともかく北アミューから面白い客人がこちらに向かってきているようですがいかが致しましょうか。」
「面白い客人?北アミューの王が直々にやってきたとか?」
「いいえ、ある意味エーデルガルド様の望む『強い相手』です。とは言え、まず戦うことはないでしょうが。」
「誰だろ。知ってる人?」
「知っている人間が一人、知らない人間が一人ですな。エーデルガルド様の配下であるシエル殿が女性を一人連れてこちらに向かってきております。馬に伝令の旗が付いていましたので、恐らく北の王からの文書を持ってきたのでしょう。」
「・・・じゃあ北にはアリスが居るっていうことか。」
「噂程度ですが、北の宰相イスヴェルグが失脚したという話もありますしアリス殿が裏で糸を引いている可能性はありますな。」
「ふーん・・・よし、じゃあオリヴィエにことわってから私がシエルを迎えに行こう。勝手に動くと怒られちゃうからね。クロウは門の方に馬を回しておいてくれるかな。私とエリカで迎えに出るから二頭。それとエリカも呼んでおいて。」
「承知しました。」
 そう言ってクロウは現れた時同様いつの間にかエドの目の前から姿を消した。
「確か今日は自室で書類の整理をするって言っていたっけ。」
 オリヴィエから聞いていた予定を諳んじてエドはオリヴィエの自室へと向かう。
 エドから見たオリヴィエは柔和な人柄でありながらしっかりとしていて、リュリュよりも歳下とは思えないほど強く見えた。エリザベスの言うとおりきっと幼いころのアリスはこんな感じだったんだろう。そう思わせる子だった。
「オリヴィエ、居る?」