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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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北の王、南の女王



(この女、本格的に頭がおかしい。)
 シエルは、北アミューの王、ロチェスの傍らに立ちニコニコと笑うアリスを見て心の中で頭を抱えていた。
 ロチェスの隣には北アミューの王である彼と同等の椅子が並べられており、そこにはテオが座っている。
 アミサガンを出た後アリス達一行はジュロメ要塞に立ち寄り、ヘクトールやメイ達と協力してジュロメに向かって来ていたゴブリン達を退けた。
(というか、ヘクトールさんはなんでこの頭のおかしい女から俺を助けてくれないんだ・・・。)
 アリスの件についてメイから予め聞いていたヘクトールは、テオことバルタザールについては眉をしかめたものの、指名手配犯達を捕まえるようなことをしようとはせずに、ジュロメ滞在中はしっかりとした寝床と食事を提供してくれた。
 そして一行がジュロメを旅立つとなった日にヘクトールは「リシエールの騎士としてしっかりと務めを果たせよ。」とだけ言い、シエルの肩に手を置くと同情とも憐れみともつかないような視線を向け、5枚ほどの金貨を握らせてくれた。そしてシエルに「残れ」ともアリスに「シエルを置いていけ」とも言わずに送り出したのだ。
(姐さんも「頑張るニャー」とか言って手を振ってたし、なんなんだあの二人は。薄情すぎるだろ。・・・というか、一体なんなんだこの状況は。)
『なんなんだ。』もなにもシエルは一部始終を見ていた。いや、実際に事に噛んでいたので完全に把握しているのだが、それでもなんなんだと自問自答せずにはいられない状況だ。
 北アミューに入国したアリスとテオはあろうことか、一切隠すこと無く自らの名を名乗り、ロチェスに謁見を許された。そして、その場で実質的にこの北アミューを治めていた宰相のイスヴェルグを幽閉してしまったのだ。
(まあ、あれは幽閉したなんて生易しいもんじゃないが。)
 テオと共に謁見を許されたアリスがその場でごにょごにょと何かつぶやくと、ロチェスの様子が明らかに変わった。それまで死んだ魚のような目をして、全く生気のなかった彼の顔に生気と覇気が戻った。そしてアリスと視線を交わすと、突然立ち上がり側にいた衛兵に命じてイスヴェルグを地下牢に閉じ込めてしまった。そして、死刑を宣告した後であえて地下牢からイスヴェルグを逃がすことで『イスヴェルグに反逆の意思あり』と断定し北アミュー全体にその旨のお触れを出した。
 イスヴェルグが実質的に権力を握っていたとは言え、それはあくまで『握っていた』にすぎない。彼がそれまで握っていた権力、ロチェスは今まさにアリスが握っている状態なのだ。
 そしてこの状況に対して疑問を持っているのがシエル一人だけというから始末におえない。それなりに長い時間を一緒に過ごすことで、友人というよりはアリス信者であることがわかったオデットは「やっぱりアリスはすごいです!」などと言っているし、短い付き合いながら意外と常識人なのかもしれないと思っていたテオも「アリスのすることなら間違いなかろう」などと言っていて、しっかりアリス信者だった。さらに出会ってそんなに経っていないロチェスですら「アリス姉様」などと言って彼女を慕っている。さらには時々アリスを気遣って玉座に座らせようとすらするのだ。
(俺か?俺だけがおかしいのか?)
「どうしたのシエル。変な顔して。」
 シエルが頭のなかで何度目になるかわからない状況の整理をしていると、玉座の横に立ったアリスから声をかけられた。
「いや・・・アリスの人心掌握術というか、布教というか・・・まあ、とにかくすごいなと思ってな。」
「あら、褒めても何もでないわよ。・・・さて、ロチェス王。」
 シエルの精一杯の皮肉をひらりとかわして、アリスがロチェスの前に立つ。
「王だなんてやめてくださいアリス姉様。」
「あら、王は王でしょう。」
「やめてください、姉様にそう呼ばれるのは、何だかくすぐったいです。」
「うむ。わかるぞ、その気持ち。ワシもアリスに陛下などと呼ばれるのはくすぐったくてな。昔からやめてくれと言っているのに一向にやめてくれんのだ。」
「陛下の場合は『お父さん』なんて無理な呼び方させようとしただけでしょう・・・それでロチェス、これからの方針なのだけれど。」
「・・・はい。オリヴィエと決着をつけるのですね。」
「その様子だとあまり乗り気ではないみたいね。」
ロチェスの返事を聞いて、アリスが尋ねる。
「はい。・・・元々オリヴィエは兄である私を立ててくれていました。でも私の弱さのせいでイスヴェルグに権力を握られてしまい、それを見て呆れたオリヴィエは旧臣のヴォルガン将軍と共に、反イスヴェルグ・・・反ロチェス派を集めて南アミューを立ち上げました。オリヴィエのやっていることはあくまでこの国を憂いてのこと。そして悪いのは私です。ですからオリヴィエと刃を交えるようなことはしたくないのです。」
「まあ、事前に集めていた情報通りね。でもねロチェス。戦争を回避したい一心であなたの取った方法はオリヴィエの神経を逆撫でするようなことだったってわかってる?」
「わかっています。籠絡して戦力を削っていったせいで、オリヴィエは『今度は自分を丸め込むつもりか』と考えて、こちらの話を聞いてくれないでしょうね。」
「わかっているなら結構。反省もしているようだし、今回は私がなんとかしましょう。」
 アリスはそう言ってロチェスの頭に手を置くと彼の頭を優しくなでた。
「何とかって言ったって、どうするつもりなんだ?」
「アリスが何とかするって言ったら、なんとかなるんです。記憶力も頭も足りない騎士は黙っててください。」
 チャチャを入れるシエルに、白い目を向けながらオデットが言う。
「お前は記憶力ばっかりで応用が効かないただの日記帳だろうが。」
「昨日の夕ごはんも覚えていられないようなスカスカの脳みそよりよっぽどマシです。」
「なんだと・・・?」
「なんですか?」
「やめなさい!」
 今にも喧嘩を始めそうな二人の会話を遮ってアリスが大きな声を上げる。
「はぁ・・・今のはオデットが悪いわ。シエルに謝りなさい。」
「う・・・まあ、ちょっと言い過ぎました。ごめんなさい。」
 アリスに窘められてオデットが素直に謝ると、シエルも少しバツが悪そうな表情を浮かべた。
「まあ、俺もただの日記帳とか言って悪かった。お前の記憶力や知識で助けられたこともあったもんな。」
「二人共そうやって素直にしていれば仲良くできるでしょうに。なんで素直じゃないの。」
「はっはっは。アリスも罪な女じゃな。オデットはもちろんシエルもアリスの事が好きなのだ。同じ人間を好きだからどちらかが構われているとどちらかが嫉妬をする。そういうことじゃ。」
 テオはそう言って朗らかに笑うが、アリスは眉をしかめて口を開く。
「頭の中がお花畑の人は黙っていてください。・・・ねえオデット、どうしてもシエルと仲良くできない?」
「え・・・アリスがそうしろって言うならそうしますけど。」
「そういうことではないのだけど・・・シエルは?オデットのこと嫌い?」
「俺はオデットという女の子が嫌いなんじゃなくてアリスアリス言っているオデットが嫌いなだけだ。」