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明梨 蓮男
明梨 蓮男
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二進数の三次元

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 爆弾……、ってことはないかもしれないが。急に恐ろしくなって僕はベランダに箱を置いておくことにした。次第に箱のことよりも、ゲームの攻略に興味が移るのだった。気づけばもう出ないとバイトの間に合わない時間になっていた。あくせくしつつも僕は支度して、バイトという義務をはたそう。


 コンビニに入ってくる客が、一時間で十人くらいとはどういうことなんだ。街に人が居なくなってったかのような気さえさせる。お昼時とはいえ、この客入りは珍しいというよりはおかしい。今日の箱のこともある。もしかしたら『不思議なこと』が起こっているのではないか。いつもじゃ掃いて捨てたいくらいの妄想さえ、十一月十一日なら実現してしまうのではないか。今、アーシェが外の道路でその大きな禍々しい鎌で悪魔と壮絶な戦いを―――。
「いらっしゃいませー」
 あともう少しでアーシェがコンビニの前を通りそうだったのに。今日としては珍しいお客様のご来店のせいでかき消されてしまった。お客様のおっさんは、昼からワンカップを選んで不機嫌そうに帰っていった。
(皆嫌なんだろうな)
 だから酒やタバコ、はたまたヤクとか。そういうのが何千年も続いているんだな。妙に納得するのだった。あとは宗教とか神話とか? 現実逃避は文化開闢の一端をになっているのかもしれない。
(アーシェも所詮……、ね)
 二〇一一年、十一月十一日。11、11、11。そんなことは関係ない。現実で生きている僕には、現実で一日一日を刻むしかない。成功者はいつも僕を励まそうとするけれど、それが何の解決策になっていないことは知らないのだ。蜘蛛の糸にすがるように新書なんか買ってその通りにして失敗する。あんなものは天才や成功者が凡人を作り上げるための洗脳の道具なのに。


 ガラの悪い少年にバイトを引き継いで今日は早めの帰宅となる。あの声を端を変に上げる感じがどうもいけ好かない。あんなナリをしているのに、店長から気に入られているのが気にいらない。人の嫌いなところはよく目立っていい。自分はこうならないように思えるからだ。しかし、人の嫌いな部分は潜在する自分の性格だと、とあるアニメで言っていたのを思い出す。と、なると僕は欠点の寄せ集めなのかもしれないな。と、なると僕は欠点の寄せ集めみたいなものなのか。
 帰る道すがら、昨日見ていた『ルーイン・サーガ』を回想していてふと気づく。アニメをただの暇つぶしだとか、話のネタとか。そういった消費物として使いすぎだ。また、そこについて回る印象を面白おかしく取り上げるメディアのせいで、アニメのことを詳しく語ろうとすると引かれてしまう。アニメは何回も繰り返して見て、どんなことがしたいのか、何を伝えたいのかを常に念頭に入れて鑑賞するのが、アニメに対しての礼儀だ。漫画でもアニメでもドラマでも映画でもテーマが存在し、それを表現する力がある。僕はそれらに教わったこと、感動したことがたくさんあるのに、いざ、それを薦めてみれば苦笑いで遠慮されるのだ。
(やめよう)
 こんなことを本気で思っているから気味悪がられるんだ。それでも何故音楽や読書が趣味と胸を張って言えている世間で、何故アニメ鑑賞が趣味には一線引いてある事実に苛立ちを覚えざるを得ない。
 オタクの宿命だとは悟っている。さぁ、今日も帰ったらネット、アニメ、ゲームが僕を待ってくれているぞ。女の子は特別、画面の中で待ってくれている。急に幼馴染が押しかけてきたり、女友達が実は魔法少女だったり、女の子の形をしたアンドロイドがゴミ捨て場に落ちていたり。は、この味気も興もないこの世ではありえない。ありえないから。
 玄関をドアを開けてもワクワクしない。買ってきたお惣菜をおかずにただ無機質な夕食。餓死はしたくないから食べているのか、英気を養うために食べているのか分からなくなってきたこのごろ。食べ終われば食器を洗ってしまう癖には母に感謝しなくてはいけない。おかげでキッチンは綺麗だ。
 パソコンのディスプレイには現実に居ない、かわいい女の子が僕に微笑んできた。ただ、僕の心は揺れ動かない。もうこのゲームは飽きたな。タバコに火をつけて一服してウィンドウを閉じた。一瞬で女の子は消えた。次はなんのゲームをしようか。積んであるゲームを順々にニコチンまみれの脳みそは提案してくれるけれど、どれに対してもやる気がもてない。そうなると―――。
(箱、見てみるか)
 ベランダに置いた箱を思い出す。爆発した様子はないけれど、恐る恐る持って部屋に入る。窓を閉めるとき、夜空に吊り下がった満月が目に入った。なんともいえない心地になって、満月から目を背けた。
 見れば見るほどただの箱。箱、というよりはただの立方体。つるつるとした質感に、ベージュ色。朝となんら変わりがない。夜風に当たってひんやりとしている。底面と思われる箇所には「Toy Casket」と刻印されている。聞いたことのないメーカーだ。ネットで検索にかけてみるけれど、めぼしい情報にはヒットしない。「おもちゃの小箱」、ふざけているのか。この箱で遊べとでもいうのだろうか。
(テレビでも見よう)
 興味はないけれど、何もしなくても騒がしいから暇つぶしになるだろう。無駄に広まったクイズ番組のひとつがやっていた。面白さを増長しているつもりなんだろうけれど醜いものだ。テロップや効果音が入っていてもクスリともこない。チャンネルを変えようと画面端に目をやると、十一時になろうとしていた。シンキングタイムの芸能人なんかより、右上の時間のほうが面白い。二〇一一年十一月十一日十一時……。性格には二十三時だけれど。十時五十八分。月が満ちるのは夜でしかない。五十九分。さぁ、何か起きろ、箱から何が出てくる? ほら!
 十一時
 パソコンの時計には二十三時。見て確認した。流れるのは正解した人の歓喜の声、下卑て聞こえる。
 分かってたからショックじゃない。だまされてやったんだ。安物のソファに背中を預けてため息をひとつ。部屋の片隅でアーシェのフィギュアがこっちを見ている。その大鎌は何のためにあるんだアーシェよ。今日の昼時といい、それは悪魔を切るためにあるんだろう? 神は悪魔だ! 早く殺してやってくれ。テレビの中の奴らはカコデモンだ。殺しにいかないと人々が冒されてしまうぞ。憂さ晴らしに玄関に放り投げてやった。
(バカバカしい)
 十一月十一日十一時も、テレビも、アーシェも、僕も。うさばらしに明日捨ててやろうと玄関に放り投げてから一服することにした。が、タバコがどこかへ行ってしまった。探す気力もないから、そのまま液晶ディスプレイの発光をぼんやり見つめておく。
(………)
 十一時三分……。七分……。九分……。十分……。
 十一時十一分。
 カタカタカタカタ……。ガーッ。キュー、キュイーン、キュキュー。
作品名:二進数の三次元 作家名:明梨 蓮男