小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
水木 誠治
水木 誠治
novelistID. 51253
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

アンハッピー・バースデー

INDEX|1ページ/1ページ|

 
三月も昨日で終わり、今日は彼女の誕生日だ。
 今夜こそは、私の秘密を彼女に打ち明けよう。秘密を抱えたまま、彼女と向き合っていくのはこれ以上耐えられない。もし、打ち明けて解りあえたなら、そのときは――。
 ずっと心に秘めてきた、プロポーズの言葉を口にしよう。

「……秘密諜報員?」
 薄闇のなか、ケーキに立てられた二十数本のローソクの炎が、静かに揺れた。
「ああ。いまは、ある女性を追っている。ある国にとって脅威となる存在の諜報員だ。捜し出して……消すことが私に課せられた任務なんだ」
 懺悔をしているような気持ちだった。
「うそ……なんでしょう。今年は騙されないんだから」
 ローソクの炎に照らされて、彼女はあでやかに微笑んだ。
 沈黙が続き、それを振り払うように私はゆっくり首を振った。
 彼女は私の顔を真摯な目で見つめていたが、小さな吐息をつくと、柔らかな表情になって私に言った。
「そう。だったらあたし達、本当に運命的な出会いだったのね」
 言っている意味がわからず、私は伏せかけていた顔を上げた。
 彼女は口元に笑みを浮かべている。その微笑の理由もわからず、私は無言のまま彼女を見つめていた。
「あなたが捜しているヒトは、あたしよ」
 ――嘘だ!
 声にはならなかった。
「あなたに見せたいものがあるの」
 彼女はそう言って、テーブルの下に右手を伸ばした。
 ――やめろ、動くな!
 窓の隙間から吹き込んだ風が、ローソクの炎を消し去り、部屋は暗闇に包まれた。
 私の放った銃弾は彼女の胸を黒く染め、彼女は椅子から崩れ落ちて床に倒れた。
 私は言葉もなく彼女に駆け寄り、抱き起こした。
「まさか、まさか、キミが――」
 あとは言葉にならなかった。
 彼女は苦しそうな息づかいで言った。
「ごめんなさい……あたし……」
 息を引き取った彼女の右手には、拳銃などではなく、私宛のメッセージカードが握られていた。
『大事な話って何かしら? 
 でもね。それがどんな話でも、あたしの答えは決まっているわ。
 いつもありがとう。
 そして、いつまでもありがとう』
 私は彼女に泣きすがりながら、そのメッセージカードを握りつぶした。
 そして、私は彼女のあの笑みの意味に気づいた。
 思い出したのだ。
 彼女の誕生「日」を――。


〈了〉