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夏経院萌華
夏経院萌華
novelistID. 50868
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魔王が死んだなら・・・最終回・・・

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僕の生活はここから始まる。ヒッソリとコッソリと暮らすのだ。
だけど、いざ、普通の生活をしてみても。なにか物足りたいのだ。
朝、普通に起きて、普通に買い物をして、家で暮らす。ごくごく当たり前の生活が苦痛でしかなかったのだ。
血を血で洗う死闘を繰り広げていた僕にはそれがごく当たり前で、何も刺激のない生活などできるはずもなかった。
(ああ。ヒマだ・・・・・)
過去の栄光とばかりに壁に飾ってあった剣がたまたまた目に入る。
(そうだ。たまには剣でも振るうか)
剣を壁から引きはがし、庭に出る。なぜか上半身裸になり、剣を振った。
ビューンと風切音が鳴り響く。
(いいねえ)
今度は剣を縦に振り、手首をかえし、すぐさま剣を横に流す。
(最高だね)
次に剣を斜めに振り下ろし恍惚の笑みを浮かべる。
(何やっているのだろう・・・)
我に返り。剣を振り下ろした。だれか見てないか辺りをキョロキョロすると、一人の少年がこちらをじっと見ていた。
「誰です?」と叫ぶと少年はびっくりし、踵を返し、その場を逃げようとしたが、焦っていたのか、石に躓き、頭から地面に激突した。
少年にたやすく近づき、
「大丈夫かい」と手を差し伸べると、
「大丈夫です。すみません。すごい技だなぁと思って・・・・見とれてしまいました」
少年は頭を押さえながら言った。その頭を見ると、血が噴き出していた。
「治癒魔法なら少しできるから、じっとしてなさい」
僕が彼の頭に手を当て呪文を唱えると彼の傷はみるみる塞がっていった。
(なんか勇者らしいなぁ)
自分に酔い治療をしていると、
「あの・・・勇者様」
「なんだい」
突然、少年が土下座をし、
「俺を弟子にしてください」と言いだす。
(この時代にこんなこと言う馬鹿がまだいるのか?おい大丈夫か少年よ)
僕の心とは裏腹になぜか口角は上がってしまう。ニタニタした顔がやめられない。それを見られたくない。だけど、嬉しさがこみ上げてくる。
その気持ちをぐっと抑え、少年に平和な世の中に勇者なんていらないのだと言う事を説明した。
なのに、少年は・・・・
「いつかまた世の中が悪くなってその時に勇者がいなかったらこまるでしょ」
手に拳を作り、目を輝かせ、訴えかける。
(まじかよ。あの目はマジだ・・・・)
「たしかになぁ・・・」
悔しいけど僕より説得力があった。断る理由が見つからなかった。半ば、説得された形で入門を許可した。
(まあ。ヒマつぶしになるし、いいか)
その日、少年は嬉しそうにしながら、家へと帰って行った。

 次の日の朝。まだ、日も明けきらぬ薄暗い中、少年はやってきた。
(こんなに早く・・・こいつバカか。常識を考えろよ)
でも・・・よくよく考えたら、僕も人の家に勝手に上がりこみ、壺やら本棚を漁っていた。よっぽどそっちの方が非常識だった。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
少年は目を輝かせ、僕に教えを乞いた。体力も有り余っているのだろう。
とりあえず、剣の基本の型を教えた。彼は一生懸命それを練習した。筋がいいのかすぐさま覚えてしまった。
(ああ・・・こんなの覚えたって・・・・)
僕は彼に無駄な時間を費やしているに過ぎない。役立たずの勇者になんかにならず、堅実に自分の道を歩んでほしいのに、彼はそんな想いを知ってか知らずか、
「先生。こういう時はどうすればいいのですか?」などと
真剣な目で僕に教えを乞う。
(なんで、こんなに熱心なのだ。)
僕はこの子の将来を考えると居た堪れない。歳を訊けば、もう18歳ではないか。見た目より若いからびっくりしたが。年齢で言えばいい年だ。将来の夢の一つくらいあるだろうと訊けば、
「勇者になる」とバカな返答しかしない。
(大丈夫か?この子)
だけど、僕には関係がないことだ。ただ暇つぶしに少年に剣を教えるだけなのだ。彼の人生など、どうでもいいのだ。飽きたらすぐにどっかに行くだろうし、これから先、修業も本格的になる。そうすれば、きっと、つらくなって、やめるだろうと思っていた。
ところが、少年はそれから毎日のように修業に明け暮れ、とうとう、僕の持っている必殺技の半分を習得するまでに至った。その間5年だ。5年もの間、少年は、いや    
青年は立派な勇者の卵になっていた。
勇者の卵になったところで、平和な世の中は終わらず平穏な日々か続いていた。彼もその事を薄々と感じていたが、なるべく顔に出さず、黙々と修業に励んでいた。
(もう、後戻りできないよ。ああ・・・困った顔しちゃったよ)
僕はこの平和な世の中に無用な物を作り上げてしまった自責の念とどうにかして彼のあまりある力のはけ口を見つけてあげなくてはいけない焦りで、
稽古の途中、剣に迷いが生じ、大けがをする時さえあった。
 (このままではいけないなぁ)
僕は苦悩した。
そして苦悩する日々を過ごす中、僕は一つの決断をした。
 
僕はすべての奥義を巻物に書き写し、漆黒のマントを道具屋に発注をし、禍々しい杖を鍛冶屋に頼んだ。
その準備に1年、禁呪魔法を習得するのに1年かかった。
すべての準備が揃い、僕はある場所に勇者の卵を呼び出した。
「どうされました」
彼の鍛えられた体はまさに鋼ように美しく、立派な体躯をしていた。
舐めまわすように上から下に視線を送り、僕は黙っていた。
「先生」
彼は戸惑いながらも、僕の異変に気づいていたようにも見えた。
僕はその言葉に耳を貸さず、発注しておいた漆黒のマントを羽織り、杖を構え、魔方陣を床に描いた。
魔方陣は辺りすべての光を吸い、大きな暗闇を作った。その刹那、禍々しいモンスターが魔方陣から無数に飛び出し、漆黒の空へと消えて行った。
「なんですかこれは?」
勇者の卵は剣を構える。僕は硬直魔法で彼の動きを封じた。
「何をするんです」
手足の自由を奪われ、彼は一層もがく。
「先生、やめてください」
(これでいいのだ・・・・これで)
僕の決意が変わらぬうちに僕は彼に、
「これから僕は魔王になる。そしてお前が倒しに来るのを待っていますよ」と
「何を言っているんです」
未だ動けない身体を必死に動かそうとしている。
「これがね。僕の出した答えなんだ」
「言ってる意味がわかりませんよ」
「ああ・・・わからないだろうな。いや、わかってはいけないよ。僕のこの気持ちなどわかってはいけないのだよ」
「・・・・・・・先生」
勇者の卵は何かを悟ったのかのように力を緩める。彼の目から涙が流れた。
彼の涙を手で拭ってあげ、
「僕の伝説の武器と奥義の書かれた巻物はあちこちのダンジョンに隠してあります。それを捜しなさい。その武具が私の居場所のカギとなります。さあ。もっともっと強くなって僕を倒しに来なさい。」
そう言うと彼の額をコツンと叩き、小声で、
「ありがとな。ホントにありがとな」と
僕の目は涙が溜まり、それを見せまいと踵を返し、そして瞬間移動魔法を唱えはじめる。
「待ってください・・・」
彼の声は泣いていた。僕も呪文を唱えるのをやめ、もう一度、彼の顔を見て、
「世の中が混沌としているからこそ、勇者は勇者として輝けるのだよ」
そう言い残し、僕は再び、魔法を唱え、暗闇の中を消えていくのであった。了