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もう一度、君に触れたくて

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「君はどの星が欲しい?」
「なぁにダジャレ?」
「あはははっ、違うって」
「そうね、あの月の斜め下にある星かしら」
「ほぉ~、君は中々センスがいいね」
「小さくても1番きれいに見えるでしょ」
「じゃぁ、あの星を君にプレゼントするよ」
「クスクスッ、ほんと?」
「望遠鏡を覗いて」
「うん」
「いい?ちゃんと見てるんだよ」

俺は望遠鏡の前に手を翳した。

「1,2,3」

一瞬、望遠鏡は真っ暗になった。
そして、また星空を映す。

「あっ、星が消えた」
「君の左手の薬指を見てごらん」
「えっ?」

君は不思議そうに左手を見た。
そして驚いた顔をして、

「いつの間に?」
「いい?一回しか言わないからちゃんと聞けよ」

俺は、深呼吸をして姿勢を正してまっすぐに君をみた。

「俺のこれからの人生を君に捧げます。君のこれからの人生を俺にください。俺の隣にはずっと君にいて欲しい いや、いてください」

俺は君の答えを待っていた。
きっとイエスに決まってるけど。
俺の変な自信。

「これからも私にたくさんのKissをしてくれる?」
「はい」
「これからも、どんなでも私を抱きしめていてくれる?」
「はい」
「おばあちゃんになっても一緒に隣で寝てくれる?」
「クスクスッなんだよそれ」
「ちゃんと答えて」
「はい、ちゃんと腕枕もしてあげる」
「皺しわになった手でもずっと繋いでいてくれる?」
「ずっと離さずに繋いでいるよ」
「私を……ずっと……愛し……」

君のその先の言葉は涙声で聞き取れなかった。
俺はそんな君が愛おしくて抱きしめた。
そして、涙で濡れた君の頬にKissをした。

涙でくしゃくしゃな君の顔。

「ひでぇ~顔だ」
「いやん、見ないで」
「かわいいって」

唇を尖らせた君の唇にまた俺はKissをした。

深く長く。
そして甘く。




コテージの天井のガラス窓から月の灯りがふたりを照らしていた。




君の高揚する体を何度、抱いてもまた君を求めてしまう。
絡まる指先、もつれ合う足、深く交されるKiss。
蒼い部屋にこぼれる君の熱い吐息。
感じやすい君の体は俺の動きに反応していく。

「愛している」
「わ…た…し…も」

俺の背中に君がしがみついて果てていく。
この俺も同じように君の中で。




どうして君を抱いている喜びよりも切なさが心の残るのだろう。




スヤスヤと俺の腕の中で眠る君を見ていた。
まるで疲れて安心しきって眠る子供のようだった。

愛おしくて髪を撫でた。

「これからは俺が君をしっかり守るから」

眠る君の髪にKissをする。

俺の瞳から涙がこぼれ落ちた。
君が傍にいるというのに、いくつもの涙が頬をつたって止めどなく流れた。

いっそう君を愛おしく抱き寄せた。
そして俺も、君の夢の中へと入っていった。




scene5

朝になってバタバタと荷物の整理をした。
俺が寝坊したせいだ。

「忘れ物はない?」
「大丈夫だよ」
「お土産は?」
「ほらここだよ」

「なんかあっという間だったね」

君が、淋しそうにそう言った。

「また来ればいいじゃん」
「ほんと?連れてきてくれるの?」
「もちろんさっ。いつでも(笑)」




ふたりで過ごした3日間は本当にあっという間に過ぎてしまった。




ふたりは、来た道を戻りあのバスの停留所を目指した。

「兄ちゃん、もう帰るん」

後方から声がした。
振り向けば、昨日駄菓子屋であった子供たちだった。

「おう、また来るよ」
「今度は、赤ちゃんも一緒だったりしてなっ」
「そだ、そうだ」
「お前らぁ~まったく、ませガキが」

昨日の延長戦で、また子供たちはきゃっきゃ、きゃっきゃと走り回っている。
俺もふざけて追い回す。




その時だった。
一人の子が道路に飛び出していった。

白い2tトラック向かってくるのに気付いていなかった。

「あっ、ぶ……」


俺はとっさに子供をかばった。


それは、一瞬の出来事だった。



危ないと、君の叫ぶ声がした。
俺の目の前にトラックが見えた。




トラックの急ブレーキの音が静かな小さな海の町に響きわたった。




俺の体が強い衝撃と共に大きく宙にまった。

そして体はスローモーションに落ちてく。
その一瞬にあの子の姿が見えた。泣いていたが怪我はしていない様だった。
俺は、それを見て安心した。

体が、大きくアスファルトにたたきつけられた。

君が駆け寄ってくる姿が見える。

なんだか哀しくて涙が溢れた。

体の震えと痛みは一瞬だった。
君が泣きじゃくって俺を抱きしめている。

僅かな力で君の頬に触れようとした。
けれどそのうちに意識も消えかけていた……。

そして、君の顔も見えなくなった。




薄れていく意識の中で俺は、ずっと君を想っていた。




scene6

季節は、幾度となく通りすぎていった。
あの日から何度目の浅い春を迎えたのだろう。

小さな海の町の景色は少しずつ姿を変えていった。

赤いポストはもう無くなっている。
あの駄菓子屋さんも今はもう、スーパーに変ってしまった。

この海の町で出会った子供たちも制服を着て思春期を迎えていた。




そんな中で、レストランは変わらずにそこにあった。

歳をとりいっそう皺が増えていたけれど変わらない笑顔のままに、
老夫婦は待っていてくれた。

「いらっしゃい、お待ちしてましたよ」

予約席と書かれた窓際の席。
椅子が引かれて腰を下ろす。

ふたつの青いコップにゆっくりと水が注がれた。

窓際の、景色の先には穏やかな海が広がっている。

何も伝えなくても、老夫婦は理解しているようで、テーブルには
湯気の立ったハンバーグとオムライスが運ばれてきた。

そして、老夫婦は静かにカウンターの奥で、その席を見守っていた。

「はい、あ~んして」
「ほら、熱いうちに食べないと」
「ねぇ、早く………」




早春の陽射しは、どこか暖かくて、だけど……………。




昼下がりの海岸通りに流れる風は冷たかった。
海岸には、家族連れや犬の散歩をする人、波打ち際で戯れる恋人たちの姿が見えた。

海辺のカラフルなコテージは、綺麗に外観が塗り替えられていた。
受付で預かった部屋の鍵には、渚の思い出と書いてある。

2つ並んだベッドの部屋の片隅に小さなトランクがひとつ。

それぞれの時間は他愛無く誰のもとにも流れている。
過ぎていく時間は色あせても心の中に美しく残っていくものだ。

コテージの小さな窓から暮れゆくオレンジの太陽が水平線に近づいていった。
白いテーブルとその上の色あせた写真がセピアい色に染まっていく。
飲みかけの紅茶はもうすっかり冷めてしまっていた。

やがて、天窓に無数の星が姿を現した。
燈りの点かない部屋。
波の音だけが部屋の中を流れていた。

満月の月明かりの下にデッキチェアーがふたつ並んでいた。
波の音は一定のリズムで寄せては返すを繰り返している。

「ねぇ、いつになったら結婚指輪をくれるの?
早くしないと私、おばぁちゃんになっちゃうわ」

「約束したでしょ。ずっと一緒にいるって。うそつき……」