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金色の双璧 【単発モノ その2】

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Scene 19.髪


1.
 聳え立つ崖から見下ろせる、わずかに開けた場所。
 血風渦巻く中、時折吹く風に金の糸を優雅に泳がせながら黄金色の輝きを放つ聖衣を纏う者をミロは眺めていた。
 次々と襲い来る相手に怯むこともなく、うっすらと笑みすら浮かべて迎い討つ。その様はある種、魔的な美しさすら孕んでいるように見えた。
 蓄積された小宇宙が爆発的に膨らみ、透明な光の衝撃波を生み出したと同時に容赦なく敵を薙ぎ払い、あっという間にこの場を制圧してみせた者は小さく口元を動かすと息を整えた。
 ザッと鬱陶しげに長い髪を払い、そしてミロのほうへと顔を向けるとよく通る声を発した。
「いつまで物見遊山のつもりかね、ミロ」
「できれば、ずっとだ。俺のことは構わずに、ぱぱぁ~っと、やってくれていいぞ、シャカ」
「ふざけた男だな」
 トンっと弾みをつけて、崖近くの高台にいたミロの傍まで難なく跳躍してみせたシャカはミロに接近し、「いい加減にしたまえ!」ときつい調子で告げる。後は任せたと言わんばかりに背を向けて進もうとするシャカの腕を慌ててミロは掴んだ。
「ちょっと待てって!俺は一対一が得意で、多勢はホント不向きなんだって……おまえのほうがこういうのは向いているだろ?」
「向き不向きなど関係あるまい。むしろ不得手だというならば、手ごろではないかね?ほら、第二陣だ。存分に修業してきたまえ」
 掴んでいた腕を払われ、ドンっとミロは背中を押された。それも手ではなく、足蹴りである。
「うわっ!ひどっ!おまえ、ひどっ!!」
「せいぜい精進したまえ」
 そう告げたシャカはその場でさっさと結跏趺坐の姿勢をとりだす始末である。何を言っても無駄だと悟ったミロはようやく修業とやらに勤しむことにした。
 



「ああ、疲れた……ホント疲れた。うわぁぁ…俺、超、最悪~~汗かいた~うわっ、こんなとこにも、あ~~ここにも返り血ついてんじゃん!?やだやだ」
 多少手こずったものの、果たすべき使命をきちんと果たしたミロは口では疲れたと口では連発しながらも、さして疲れた様子も見せずにシャカの元へ戻った。シャカはといえば相変わらず結跏趺坐の姿勢のまま。深い眠りについているかのようにさえ見えたが、最低限度の小宇宙で結界を張り巡らせていた。
「おい。シャカ、終わったぞ」
「うむ」
「なぁ、どこかに水浴びできるような場所なかったっけ?血生臭くて仕方ないんだよ、俺」
「きみは無駄な動きが多いようだな。だから、そのように必要以上に汗もかくし、返り血まで浴びるのだよ」
 秀麗な眉根を寄せてシャカがくどくどと説教モードに入りかけそうになるのを察したミロは先んじて手を打つ。
「うるさいなぁ~。だから言っただろ?多勢は苦手なんだよ……あ、そうだ。ここに来る途中あったな、ちっさい滝。俺、あそこで水浴びしてくるわ。んじゃ、先に行ってるからな、シャカ」
 言うが早いかミロはすでに駆け出していた。「落ち着きのない男だな」と呟きながら、のっそりと立ち上がったシャカは呆れたように一息つくと、ミロが告げた場所へと向かうことにした。
 ミロが言ったように来る途中で、小さな川と滝が木々の間から見えていたなとのんびりと向かい、シャカが到着した頃にはすっかりミロは小さな滝が連なる川で、聖衣ごと豪快に水浴びをしていた。
「さて……」
 どうしたものかとシャカは思案していると、ミロはますます勢いづいて聖衣もさらにはアンダーシャツまでも脱ぎ捨て(つまるところ真っ裸になり)、気持ちよさげに水浴びを通り越して、ザバザバと川遊びに興じていた。
「お!シャカ、おまえもどうだ?気持ちいいぞ~」
「………」
 たしかにミロの言うとおり気持ちはいいだろう。だが、できるならば静かに沐浴したいと思うシャカにすれば、迂闊にミロがいる川の中に入る勇気を持てないでいた。過去に似たような場面があったなと埋もれていたシャカの記憶が刺激される。あまりいい記憶ではなかったはずである。
「そういえば、シャカ、面白い話をしてやろうか?」
「―――ん?」
 思い出しかけたところで、ミロの邪魔が入る。すい~っとシャカがいる川辺まで身を流し辿り着いたミロは頃合いの岩に腰をかけて、どこかの美術館に展示されている彫刻のように見事な肢体を惜しげなく、陽にさらした。
「アイオリアのことさ。あいつ、近頃モテ期到来みたいでさ、毎日のように女に集られてやがんの」
「ほう。それは面妖な」
「だろ?ま、それでさ……俺もそうだけど、来る者拒まず方針みたいでな。で、俺と違ってあいつバカだろ?立ち回りも下手糞なクセにそんなことしてたら……」
「当然のこと、修羅場……であろうな」
「そうそう。まぁ色々と派手にやらかしてるってわけだ」
「まったく何をやっているのかね、アイオリアは」
「ほんと、盛りのついた獣だな、あいつ」
 わははと陽気に笑うミロを尻目にシャカは顔を歪めて、至極真面目に告げる。
「貴様にそう言われてはアイオリアも終わりだな」
「なぜだ?」
 悪びれることなく、本当に不思議そうにミロは小首を傾げた。