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金色の双璧 【単発モノ その2】

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Scene 17.指



1.
 ゴツゴツと節くれ、傷が治りきらないうちにまた次の傷を作って、陽に翳しても透けもしない、やたらと分厚くなってしまった掌。休憩の為に腰を下ろした木の根元で緑葉の隙間から毀れる日差しを避けるために翳した時、まじまじと自分の手をアイオリアは眺めていた。
「柔らかかった……なぁ……」
 それはつい先日のこと。
 大した要件ではなかったけれども、ロドリオ村まで行く機会があった。聖域とは違った生活感溢れる小さな村である。アイオリアにとって大切な場所の一つだ。
 決して多くはない人々の暮らしではあったけれども、とても心安らかで温かな場所であったし、聖域の者ほどに深い事情など知ることのない村人たちはアイオリアと接する際に「特別な」意識も持たれず、気さくに接していてくれたから、何も気負うこともなく、肩肘張らずに過ごせることのできる場所でもあった。
 あまり許しもなく聖域外に出ることは良しとはされていなかったので、ちょっとした頼まれごとや命令などで、堂々と村に立ち寄れることができるのであれば、喜んでアイオリアは引き受けた。
 先日も教皇からロドリオ村の村長への渡し物を届ける役目を仰せつかって、無事渡し物を届けた帰りだった。久しぶりに村に来たものだから浮き足立っていたせいもあった。集中力を欠いていたアイオリアは曲がり角の出会い頭で余所見をしていたせいで、出合い頭にぶつかるという、有り得ない失敗をしたのだった。
 どんっと軽い衝撃と共に、小さな悲鳴が上がった。アッと思う間もなく、ぶつかった衝撃で相手がバランスを崩し倒れそうになるのを捕らえた。自然に伸ばされた腕を掴んで引き寄せたのだ。そう、まるで小説か映画のようなドラマティックな出会いがそこにあった。
「―――あぁ。これが本当に、本当の、恋ってやつか?」
 思わず毀れ出る溜息。今日出会ったばかりのその子の姿が脳裏に浮かんでは消え、また浮かんで…を繰り返す。なんていうか胸が苦しいような、それでいてぽかぽかと温かいような、なんともいえない気持ちになるのだ。
 緩やかに波打つ琥珀色の髪を振り乱すように、健康的に日焼けした肌でもわかるくらいに顔を真っ赤にして、泣きそうになりながら、その子は何度も何度もアイオリアに詫びた。
 アイオリアが「悪いのはこっちも同じだから」と、もう謝らないで欲しいとその子と同じくらい言って、ようやく落ち着いた相手が真っ直ぐアイオリアを見たとき、とても綺麗な菫色の瞳と目が合った。その瞬間、キューピッドの矢が胸に刺さったような気がしたのだ。

『ありがとう。私はソフィア。あなたは?』

 そう言って彼女は手を差し出した。どぎまぎしながらも応えるように手を差し出して、ゆっくり手を握った。今まで触れたことのない、とても柔らかで、小さくて、そして温かい手だった。思い出すだけでどくんどくんと早鐘のように鼓動がうるさくなる。
 その後彼女はすぐに立ち去ってしまった。かろうじて判っているのは彼女の名前だけで、彼女がどこに住んでいるのかとかは一切わからないままだ。けれどもじんわりと温かくて、ちょっぴり切ない気持ちはどんどんと膨らむばかり。ただ、会いたいと思う気持ちが募るばかりだった。