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監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~(完結編)

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 二階に上がると、似たようなドアが幾つか並んでいる。鉄製の狭い通路に洗濯機が置かれているところもあれば、無人なのか長旅にでも出ているのかポストに新聞や郵便物が溢れんばかりにたまっているところもあった。
 二〇三と部屋番号がドアにマジックで書かれている。インターフォンがあったので、試しに押してみると、ブーと思わず飛び上がるほど大きな音が鳴って慌てた。
「はい?」
 ほどなく中側からドアが開いた。よほど運が良かったのだろう、反町君その人に逢えた。
「君―」
 流石に反町君の整った面には愕きがありありと現れていた。
「あ、あの。私、二組の安浦愛奈といいます。今日は突然、訪ねてきて、ごめんなさい」
 愛奈も彼に逢いたい一心で来たものの、いざ顔を合わせてみると何をどう話して良いのか判らなくなった。とりあえず持参したものを渡さなければと小さな紙の手提げ袋を差し出す。
「これ、私が作ったの。また食べて。それから、転校するって聞いたから、お別れの記念にと思って―」
 お別れの記念という言い方も我ながら随分と妙だ。しかし、こういう場合、どういう言い方が適当なのか判断がつきかねた。ここに来るまでは告白しようと思っていたが、こうして顔を見てプレゼントまで渡すことができただけで十分だと思った。
 反町君は黙って紙袋を受け取った。中を覗き込むと、存外に屈託ない笑顔を浮かべた。
「へえ、クッキー。君が焼いたんだ?」
「そう」
 そこで少し考えて、付け足した。
「本当は来年のバレンタインに手作りチョコを渡そうと思ったんだけど」
 反町君の黒瞳がじいっとこちらに向けられる。愛奈は居たたまれなくなり、紅くなった。
「こ、告白しようかなとか思ってたりしてたから」
 思わず声が上擦ってしまった。変な女だと思われていなければ良いが。
「良かったら、ポールペン、使ってね。これから受験とかあるし、大学に行っても使う機会はあるだろうから」
 それだけ言うと、後は何も言うべき言葉がないのに気づき、焦った。
「それじゃ、これで。北海道に行っても、元気でね」
 ぎごちない様子で回れ右をして立ち去ろうとしたその刹那、いきなり背後から抱きしめられ、愛奈は固まった。
―え、な、なに?
「ありがとう。一生大切にするよ」
 吐息混じりの言葉が耳を掠める。反町君の息遣いも愛奈の身体に回された手も何故かとても熱くて、抱きしめられた愛奈自身もその熱が移ってしまったかのように熱くなった。
「ごめん、僕がまだ若すぎて何の力もないから、君に好きだと告げることもできなかった」
 そのときの彼にとっては、そのひと言が精一杯の言葉だったのだろう。反町君はすぐに手を放し、愛奈を自由にしてくれた。
 その時、自然に眼と眼が合い、二人は気まずそうに視線を逸らした。二人とも頬がうす紅く染まっていた。
 愛奈が小さく頭を下げて行こうとするのに、?待って?と彼が声をかける。
「駅まで送らせて」
 彼は一階の自転車置き場から年代物らしい自転車を引っ張り出してきた。愛奈の鞄は前籠に入れてくれ、自転車を押した彼と愛奈は並んで駅までの道をゆっくりと辿った。
 その道すがら、愛奈は反町君から想像もしていなかった話を告げられた。
 今回の急な転校は、実は父親が経営を任されている工場が急に閉鎖されることになったためだという。
「北海道の方に関連工場があるんで、そっちの方に転勤という形で行くことになったんだ」
 反町君は淡々と説明する。更に彼は愛奈にショックを与えることを言った。
「父が雇われ工場長をしていた工場は子ども服を作っていてね。親会社は結構名の知れたメーカーで、更にその上にそこを傘下にしているアークコーポレーションという一流企業がある。親父が工場閉鎖と転勤を宣告された時、上から言われたそうだよ。同じ高校に通う息子に安浦愛奈という女子生徒とは今後、何があっても一切関わり合いにならないようにさせろって。もしその約束が守られなければ、北海道工場の話もどうなるか判らない、つまり首切りを暗にほのめかされたんだよ」
「―」
 愛奈は最早、言葉もなく蒼白になっていた。
 反町君が気遣うように彼女を見た。
「大丈夫?」
 愛奈はそっと頷くしかない。彼は弱々しい笑みを浮かべた。
「僕も君と同じだ。晴れて受験が終わって卒業式の日が来たら、君に思い切って告白しようと思っていた。もっとも、バレンタインに君から告白してくれたのだとしたら、卒業よよりは少し早く付き合うことになったかもしれないけどね」
 反町君が愛奈から視線を逸らした。
「親父から言われたよ。僕が安浦愛奈という子とどういう関係があるのかは知らないが、彼女はアークの若社長の婚約者だから、間違っても手を出しちゃいけない」
 ごめんね、と、彼はまた謝った。
「何だか学校でも噂になってたらしいけど、僕は君が好きだった。サッカー部の悪友に二組に可愛い子がいて好きなんだって、うっかり洩らしたのがいけなかったんだろうな。あいつ、お喋りだから」
 その悪友というのが恐らく満奈実がこの住所を聞き出した彼の親友に違いない。
 彼は眩しげに空を見上げた。すっかり長くなった夏の夕陽が長身の彼の影を舗道に映し出している。そろそろ暮れ始めたオレンジ色の空が妙に遠くにあるように思えた。
「もし僕が高校生じゃなかったら、せめてもう少し大人だったら、僕は君がアークの社長のフィアンセであろうと、気持ちを堂々と打ち明けたと思う。その上で君が社長よりも僕を選んでくれたなら、僕は社長を敵に回しても君をさらっていった。でも、僕たちはまだ高校生にすぎない。仮にこのまま君とどこか遠くに逃げたとしても、僕は君の幸せを守ってあげられると約束はできないんだ。勇気と意気地のない僕を許して」
 ううんと、愛奈は泣き笑いの表情で首を振った。
「最後に反町君の気持ちを聞かせて貰えて嬉しかった。私の方こそ、ごめんね。私がアークの社長にあなたのことを喋ってしまったの。カッコ良くて素敵な男の子がいるから、告白しようかと思ってるって」
 よもやその他愛ない打ち明け話がひと組の父子の―少年の運命を無残に変えることになるとはあの時、考えもしなかった。
 拓人は最も卑怯な手を使った。愛奈の生まれて初めての恋はまだ芽吹くその前に、拓人によって摘み取られてしまったのだ。もう二度と、芽吹くこともできないほど徹底的に踏みつけられた。
 だが、これだけは彼に伝えておきたいと思った。
「でもね、これだけは信じて。アークの社長は私の従兄だけれど、婚約者だというのはまったくのデタラメよ。私たちの間には何もないし、私は彼をお兄さんのようにしか見たことはないわ」
「そうなんだ」
 反町君は頷き、晴れやかな笑顔を見せた。
「僕は大学へは行かない。君に余計な心配をさせてしまうから黙ってようと思ったんだ。でも、君には僕も本当のことを知っておいて欲しいから、正直に言うよ。北海道工場に行ったとしても、どうなるか判らないんだ。そこはもう倒産寸前の弱小工場らしいからね。親父は転勤とは名ばかりの体の良い首切りだって言ってる。多分、僕を君から遠ざけたいためにアークの社長が仕組んだことだろう」