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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 16

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第58章 暗躍する影


 ウェイアードの西の大陸、アテカ大陸には、古来より伝わる伝承があった。
 かつて、アテカ大陸の地にはギアナ族だけでなく、アネモス族という民族が暮らしていた。
 ギアナ族の村のすぐとなりに、アネモス族の集落はあった。アネモス族にはギアナ族にない大きな力があった。
 エナジーである。風神の加護を受けた彼らには風のエナジーが備わっていたのだ。
 そうした加護を受けてか、アネモス族とギアナ族の文明の差は大きかった。アネモス族の方が大きく勝っていた。
 彼らは、自らの集落の近くに、様々なものを遺していった。
 予知の力を持つ彼らは、気の遠くなるほどの未来に、翼を携えた船が大空を舞う、と予見した。そうして、彼らは巨大な、翼のある船の地上絵を描いた。
 アネモス族が遺したものは地上絵に止まらない。
 当時のアネモス族の長老は、一族の中でも特に優れた予言者であり、彼の目には、時を同じくして起こる、天界での神々と悪魔との戦いが見えていたのである。
 戦いは神々が圧倒的に劣勢であった。天界が悪魔により崩壊し、地上にも魔の手が差し掛かるのは十分に予想できた。
 そこで長老が下した決断は、神殿の建立だった。
 神殿を建て、神々に祈りを捧げることにより、将来天界にて起きる災厄を鎮めうる力を、神々に得てもらう事が目的であった。
 しかし、風神から授かったエナジーを持っているとはいえ、神々が苦戦する悪魔にアネモス族の祈りごときが通用するのか、一族の中には疑念を持つものはいた。
 それでも、アネモス族長老は神から授かりしエナジーを祈りへと変え、天界の神々に力を与えたい。この一心で作り上げられたのが、アネモス神殿である。
 そして、アネモス族の祈りは毎日のように捧げられた。いつか来るやもしれぬ地上にも及ぶ災厄を避けるべく、彼らはひたすらに祈り続けた。
 祈りは長い間続いた。そして、ついに祈りは通じ、長老の目には滅びゆく大悪魔の姿が映った。
 喜び合う一族であったが、長老の目に不穏な動きが見えた。破滅していくはずの大悪魔が、完全には消え去らないのである。
 予知の力を持つ彼には分かった。悪魔を滅するのではなく、一時的な封印が施されているだけである事だ。
 更に悪いことに、封印はそう長く保つようにはできておらず、百年も保たないほど脆弱なものであった。
 その後、悪魔の封印は、アネモス族が神へ祈りを捧げるため建立された、アネモス神殿へとされてしまった。
 アネモス神殿へは、アネモス族しか入れないような仕掛けが施されていた。皮肉なことに、大悪魔はそのことを知り、封印されながらもアネモス神殿へ落ち延びた。
 復活を遂げんとする悪魔により、アネモスやギアナの地だけでなく世界自体が、危機に陥る事をアネモスの長老は予知した。
 遠い未来の話とはいえ、滅亡の未来を知り、アネモス族は恐れを抱いて生きていくようになった。
 そんな彼らに予知能力を与えた天界の神々、アネモイは哀れに思い、また、力を与えてしまった自責の念から、アネモス村に救いを与えるべく、地上から解放した。これが後にギアナ族に伝わる、浮遊していったアネモスの伝説となったのである。
 アネモス族のごく一部だけが地上へと残った。そして今や二人の末裔が残るのみとなった。
 そして長い年月を経て、ついにアネモス族の長老が予知した通りになりかけていた。
    ※※※
 錬金術により神を超え、全ての力、永遠の命を得ることを野望とし、動く者がいた。
 かつて、マーキュリー族の末裔として、マーキュリー灯台を守る者の一人として、かの者はイミルの地にて修行に励んでいた。
 かの者、名をアレクスといった。
 アレクスは幼少の頃、常人には備わらない力を宿していることから、魔物の子供であると迫害を受けていた。
 時に殺されかけながらも、アレクスは世の人々に絶望と憎悪を抱きながら、当てのない旅をしてきた。そしてたどり着いたのは、マーキュリー族が住まう地であった。
 運良く生き延びたアレクスは、世にマーキュリー族の存在を知らしめることを目的として生きることに決めた。
 その為には強くなること、何者にも劣らない知識を得ることを目的に、修行を積んでいた。
 武術やエナジーの修行は、同族の仲間、メアリィの父親に相手をしてもらう事で行い、知識は自ら古い書物を紐解く事で得ていた。
 修行に明け暮れ、ただひたすら力
と知識を得る日々を送る中、アレクスは古文書からあることを知ってしまった。
 錬金術。その存在であった。
 路傍の石を金へと変え、草原の草を肉へと変えることができる。錬金術とはまさに神に最も近づける、すばらしき力であった。
 錬金術の存在を知って以来、アレクスはより深い情報を得るため、寝る間も惜しんで古文書を繰り続けた。
 そして、アレクスは封印された錬金術を復活させるための手掛かりを見つけるに至った。それはマーキュリー族の存在意義そのものをねじ曲げてしまうようなものだった。
 錬金術復活には、ウェイアード各地に点在する、神が造りし灯台を全て灯すことだった。
 その灯台とは、マーキュリー族の守護するマーキュリー灯台も、当然のごとく含まれていた。
 しかし、全てを知ったアレクスには一族の義務など、最早どうでもよいものと化していた。自身を迫害した世界への復讐心が、彼の原動力となっていた。
 その後、アレクスは一族を裏切り、錬金術解放のため各地を練り歩く事となった。
 イミルを抜け出し、アンガラ大陸を旅している途中、アレクスは山奥で妙な洞窟を見つけた。
 その洞窟に進入すると、アレクスは驚いた。そこには顔以外石化した者がいたからだ。
 全身は石化していたため、体躯からは判断できなかったが、顔立ちからして女らしかった。いったい何者か、驚きながらもアレクスはそれに近づくと、それは突然目を開いた。
 アレクスはこれまで生きてきた中で、最大の驚きをあらわにした。思えば、飛び跳ねるほど驚いたのはその時が最初で最後だった。
 石化した女は口を開いた。
「……ついに来たわね……、十年以上待ったわ……」
 アレクスは言葉を発することができずにいた。
「何をしているの……、早く私を助けなさい……!」
 凄んでくる女に、アレクスは何とか言葉を紡いだ。
「どうすれば……?」
「あなたがエナジストなら、私に触れるだけで石は砕けるわ……、早くなさい!」
 アレクスは手のひらを見つめると、意を決して石化部分に手をふれた。すると、女の身体を包み込んでいた石は、まるでただの土塊のように砕け落ちてしまった。
 十年ぶりに石化から解放された女は、支えを失ってその場に膝を付いた。
「ふう……、ほんの十年とはいえ、ほんとひどい目に遭ったわ……」
 女はゆっくりと立ち上がった。女は群青色のローブに身を包み、先のとがった帽子をかぶっており、プラチナ色の髪を垂らしていた。魔女、という言葉を形容するのであれば、彼女こそがふさわしい姿をしていた。
「貴女は一体、何者ですか?」
 十年という月日を短い間と考えている辺り、人間ではないことは確かだった。
「あら、女に先に名乗らせるつもり? 最近の人間はなっていないわね……」