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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 京田家の長男の一郎は、父であり社長である龍介が全国展開する多国籍料理ロサ・ブランカの会社専務。自由を好む芸術家肌で、経営に向かないタイプだ。
 一方弟の次?は常務、上昇志向が強く、ビジネス社会に熱く生きる。それでも互いに認め合い、仲良くやってきた。

 しかし、ここへきて父が病に倒れた。こうなれば跡取り問題だ。家督の順位で行けば、長男の一郎が社長を継ぐことになる。このことより兄は、野心に満ちた弟の目の上のたんこぶとなり、最近兄弟仲が悪い。
 そんなある日、一郎は弟に歩み寄る意味で居酒屋〈天空の城〉を開設し、すべてを次?に任せようと考えた。その看板にと竹田城を撮りにきたのだ。だが不幸にも転落死してしまった。
 そして四十九日が終わり、社長は次?で一段落したかと思われた矢先だった。事もあろうか、今度は次?が本社ビルの屋上から飛び降りたのだ。

―― 兄、一郎の社長昇格がもし決まれば、それは私にとって我慢できないこと。そこで私が立雲峡で転落死させました。
 こんな遺書が残されていた。そして、背後から兄に体当たりする次?の、ドローンから空撮された写真が添えられていた。
 さらに――、私は人殺しです、会社と一族の名を汚し、死をもってお詫びします、と結ばれてあった。

 こんな事態に陥り、再捜査を命ぜられた百目鬼刑事、「無人ヘリは次?が一郎を突き落す瞬間を狙っていたのだろう。よって、二人をよく知る第三者が首謀者ってことか」と独り言ちる。これに耳を貸す風もなく、次?が残した写真をスキャンし、PCでチェックしていた部下の芹凛こと芹川凛子刑事が唸った。
「奥の木陰に、ケイタイで誰かと話す女性がいます。拡大してみると……、これって社内メールにアクセスできるブラックベリー、そういえば、ロサ・ブランカの幹部はこれを使ってたわ」と。

 百目鬼はこれを無視し、見出し『次期社長は、同族外の斉藤常務が濃厚』との朝刊を芹凛の前に置く。
「すべてが繋がってるようだな。さっ、ロサ・ブランカの本社へと出向くぞ」と百目鬼が表へと飛び出した。芹凛はただ追い掛けるしかなかった。