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いつか『恋』と知る時に

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 頬が熱い手で挟まれた。壽一の意識が他に向いていると感じ取った茉莉絵の仕業だ。壽一の目の焦点が自分に合うと、彼女は赤い唇の口角を上げて妖艶に微笑んで見せ、一度動きを止めて口づけた。身体同様に熱い舌が、壽一の舌に絡みつく。長く深い口づけの後、離れた茉莉絵の唇は、溢れた唾液に濡れて実に艶めかしい。さすがに壽一の下半身も急激な昂りを覚える。
(さっさと終わらせるか)
 壽一は繋がったまま茉莉絵を後ろに倒した。今度は彼女が下になる。アーモンドの形をした目が、挑むように壽一を見ていた。男の悦ばせ方を知る目だ。貪欲に快楽を求める目でもある。
 あの時の雅樹の目は、どこか違うところを見ていた。無理やり壽一と関係を持ってしまった悲しみでも恨みでもなく、諦めにも似た表情。それでも身体は従順に壽一を受け入れ、心地よさに耐えられなくなった声を切れ切れに漏らした。雅樹の「慣れていない」新鮮さが、壽一の理性を吹き飛ばした。そんなことは、後にも先にもあの時だけだ。
 似ても似つかぬ雅樹の面差しが、一瞬、茉莉絵に重なる。途端に壽一の腰は穿つ速度を増した。比例して彼女の声は高くなる。
 この柔らかな肢体を抱きながら、なぜ雅樹を思い出すのか壽一は不思議でならなかった。しかし極みに達し、法悦に浸って閉じた目蓋の裏に浮かんだのは、紛れもなく雅樹の顔だった。