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殺し屋少年の弔い

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プロローグ



 まだ私が中学二年生の時の話。
 中学から冬休みの始まりを告げられ、どの生徒も浮き足立って帰路に着いていた。
広くもない校門から流れ出てゆく生徒たちの中に、彼も居た。ちなみに言っておくと、私は中学生という属性こそ同じだが、この濁流の1水分子を構成されることはなく、学校近くのすこし高いビルの屋上から高みの見物を決め込んでいた。上から渡された写真と合致する人物を、この濁流から見つけ出すのは野鳥の会でも中々難しいのではないのだろうか、なんて思いながらね。
その下流をすいすいと泳いでいくアヒルの中の一匹である彼に、双眼鏡の真ん中をくるくると回し、ピントを合わせる。アヒルたちは互いに肩を叩き合い「じゃあな」なんて挨拶している中で、彼は誰からも接触されることなく学校の敷地から流れ出た。
それでもなお気だるそうな足取りを八倍ズームの視界で追いながら、私は、大方彼の思考回路は「早く帰って寝てやる」くらいの不毛な欲望で埋め尽くされているだろうと推測した。
そんな脱力アヒルくん一匹を、純粋無垢な子供たちが小川に放流した草舟をとことこ追いかけるように、双眼鏡を覗きながら立ち並ぶビルの屋上をぴょこぴょこ飛び越えながら追った。
だいたい彼の進行方向が自宅に限定されそうなあたりで、一旦双眼鏡をおさめた。
 そして淵の柵にロープを結び、五回建てのビルをスルスルと降りた。
 そして彼が今居るであろう通りの一本奥の建物の影から、彼を見張る。
「平凡だな……。」
扉を開けるときに、彼の口はそういう風に動いた気がした。全力で駆け寄って両肩を掴んでから「私もすごくそう思うよ!」と狂気乱舞して言ってあげたい気持ちが生まれたが、一つ奥の路地にいた、と言うよりは任務中であった私にその行動を執ることは出来なかった。
思い返せば、この時の自分の行為はストーカーの様だった、いや、ストーカーにしか見えなかったと思う。何が違うかと聞かれたなら、それが私の仕事だった、としか答えようがない。多分ネクラなストーカー達には私みたいなアクロバティックなストーキングはできないし、ストーカーよりかは絶対社会の役に立つ。
私はそんな自負を抱えながら、この任務もいつもと変わらない簡単なもので、いつも通り簡単に成功する任務だ、なんて自信満々だった。
スカートの内側に隠していた数本のナイフを確認するように外からそっと撫でながら、彼の家へと近付く。一歩歩む度、それまで私が殺した人間達の顔が脳裏に浮かぶ。まるでスライドショーのように次々と、ナイフを突きつけられて怯える顔や私を怨めしそうににらむ顔が浮かんでは消えた。
「ふふっ。」
常人ならば足をすくませてしまうだろう恐ろしい映像は、その時の私には今回の任務の成功を裏付ける『昔取った首塚』でしかない。なんたって、私がこのナイフで切り裂いた人の数だけ、私が成功させた任務が多いって事だからね。しかも私にわざわざ課す任務は、『静かに迷宮入りさせたい殺人事件』だから結構重要なのよ。それこそ犯人が分からない事かつ凄惨な殺人現場なんて感じの。

山田。表札にはそう書いてあった。行動と思考回路だけでは飽きたらないようで、名前すら平凡のようだ。家の横に停めてあった車は、誰でも知っているような高級車。一度は乗ってみたいなぁ、と女らしくない事を呟いて、チャイムを横目に流しながら門を思い切り乗り越えた。つかつかと前進し、ドアノブに手を掛ける。
「お邪魔しまぁーす。」
玄関の鍵を、事前に確保されていた合鍵で堂々と開ける。流石に心拍数が多くなる。
扉を思い切り開く。その瞬間に広い玄関の左に階段、右に扉が二つあることを把握した。
 警備の人間が居るかもしれないから気をつけろ、なんて上が念を押してきたので一応こちらも警戒しながらゆっくりと玄関を進む。
無人の廊下に土足で上がりこみ、そこでいったん静止した。
「……。」
 二階から聞こえる話し声から、家族は上の階に居ることを把握する。警備のための人員と一緒の空間に居るような雰囲気ではない事で、この家は無警戒状態であろうと察する。同時に、隠していたナイフをスカートからするりと取り出した。

―――――さあ、やってしまおっと。
 
作品名:殺し屋少年の弔い 作家名:Hiro@文芸部