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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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予言


『イタリア・ヴェニス』 秘密結社イルミナティ 十月十七日 深夜


 ここはサン・マルコ大聖堂から北に三百メートル程歩いた場所にある小さな教会だ。深夜の道路には人影は無く、ここに来るまでに出会ったのは汚い野良犬だけだ。
 バルロッティは音も無く協会の裏手に周り、錆びた鉄製のドアを開ける。身体をしなやかに滑り込ませ、耳触りな音とともにドアを閉めた。地下に続く階段を手探りで降りた突き当りの部屋で、今夜は最も大事な『会議』があるのだ。
 自分を入れて十二名のメンバーが集まっているが、ろうそくの明かりで照らされたカビ臭い空間には咳払いひとつ聞こえない。全員が黒い衣をまとい、ギラギラした眼でこちらを見ている。
 一つだけ空いている中央の席に深々と腰を下ろすと、議長を任されたバルロッティは静かに話し始めた。
「ご存知だと思いますが、秘密古代文書と我々に伝わる聖なる予言を分析した結果、世界の滅びは確実となりました。現在、我がイルミナティの総力をあげて地下王国を建設中です。すでに九割は完成しており、十二月の予言の日までには入国できる予定です」
 白髪をたっぷり蓄え、ひときわ目立つ司教マルティーノは、カナル・グランデの地下にある王国の完成図を、目を細めて思い浮かべていた。
 バルロッティは低い声で続ける。
「そこで我々は、今ここで大事な決断をせねばなりません。そう王国指導者たちについてです」
 室内の温度が一気に上がったように感じた。
 マルティーノ司教がここでついに口を開く。
「諸君。予言の書に記してあるとおり、王国の六つのコミュニティには六人の指導者が必要である。逆に言うと、六人しかいらぬということだ。つまり我々はこの中から指導者を選ばねばならん」
 司教は丸テーブルに置かれた銀の盃を手に取ると、高く持ち上げ高らかに叫んだ。
「我こそはと思うものは、今ここで目の前の盃を飲み干すのだ。さあ、次世代の王を目指す者たちよ!」
 一人、また一人と盃に口をつけ飲み干す。マルティーノ司教はじっとテーブルを見ていた。
(中には口をつけて飲んでいない者もいるに違いない)と思いながら。
 そう――自分のように。
 数分たったころ数人が泡を吹き、のどを掻きむしりながら苦しみだした。やがて彼らは全く動かなくなった。
「愚かな。聖なる予言の書の本当の意味を理解していれば、飲み込むことは無かったはず。予言の書の通りになりましたね」 
 バルロッティは、司教をまっすぐ見つめながら呪文のような言葉を唱え始めた。
「枯れた黒いバラは六本。花咲く黒いバラは……」
「六本じゃな」
 司教は顔色ひとつ変えずにそう言うと、聖なる予言の書を静かに閉じた。



『新宿の路地裏』 同時刻


 ここは新宿の繁華街から少し外れた暗い路地裏で、別名『占い通り』と呼ばれている。
 手相占いを生業にして三十五年になるマダム・華子はいつもの場所に座り、並んでいた三人目の客を占い終えたところだった。よく当たると評判の華子のブースには、常にひっきりなしに客が並んでいるが、今は不思議と順番待ちはいない。
 華子は立ち上がり、凝り固まった腰をトントンと叩きながら隣のブースの古い友人である黒星タケシに近づいて話しかけた。
「タケちゃんとこは暇だねえ。そう言えばさ、このごろお客さんの手相が、妙な感じじゃないかい?」
「うるせえや、たまたま暇なんだよ。妙ってなんだ。あんた目が悪くなってきて、よく見えないんじゃねえのか? まな板ぐらいのでっけえ虫眼鏡に変えてみたらどうだい?」
 からから笑いながら、肩幅ぐらいに両手を広げる。
「失礼ね、わたしゃそんなババアじゃないよ。とにかくあんた自分の手をみてみなよ。特に生命線を」
 スッとタケシの顔から笑顔が消えた。
「……あんたも気が付いてたか。俺もそうだが、一年ほど前から生命線がみんな同じようなところで切れてるんだよな。若いもんから年寄りまで、みんなそんな傾向があるんだ」
「そうなんだよ。これじゃまるでみんな同じ時期に死んじゃうみたいじゃないか」
 華子も、普段タケシと話している時には見せない真面目な顔をしている。
「縁起でもねえことを言うな。三日ほど前に、物凄く長い生命線を持った若者を見たぞ。一人だけだが……。まあ、たぶん大丈夫だよ」
「何が大丈夫なもんか。あんた一年で二千人ぐらいみてるんだろ? そのうちの一人だけっておかしいだろうよ」 
 今にも雨が降り出しそうな暗い空を見上げたあと、くるりとタケシに背をむけながらそっと呟いた。
「何か不吉なことが起ころうとしてるねえ。私にはわかるんだ」
 そう。世界各地で、そう遠くない未来に起こる変化を感じている人たちが、確かに存在していた。