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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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機密


『地下施設・A‐ブロック』 一月二十三日


 たかしと斉藤たちが居なくなってから三日が過ぎた。俺は彼らの使っていた部屋に何度か足を運んだが、結局彼らが帰ってくる気配は無かった。
 そして俺は後悔していた。どんな理由があったにせよ、愛里を裏切ってしまったことはもう消せないのだ。正直に愛里に話すべきか、それとも施設の問題が片付いてから話した方がいいのか。
 毎日駆け回っているおかげで昼間はまだましだったが、夜になると申し訳ない気持ちで押しつぶされそうになっていた。ただ救いは、あの日からぷっつりと俺が呼び出される事が無くなったことだ。もう二度とあそこには行かないと誓ったからちょうどいい。たとえ殺されても行くもんか。
 ところで、捜索している途中で今日初めて気づいたのだが、このブロックの東に時計塔の様な建物がある。ここの時計の下に、四桁のデジタル数字が表示されていた。そこには『0991』 と表示されている。もしこの数字が入所締切日に『1000』を表示していたとしたら、すでに九人減っている事になる。
 背筋が寒くなるのを感じたが、それを振り払うようにしてまた竜崎探しを始めた。

 その夜、特に収穫も無くへとへとになって部屋に戻ると、俺を待っていたかのように内線が鳴りだした。
「東条君だね。僕が誰か分かるかな?」
 低くて澄んだ、聞き覚えのある声だ。声の主に気付いた瞬間、受話器をきつく握り直した。
「竜崎――さんですね」
 怒鳴りつけそうになったが、それを飲み込み冷静に答える。
「何か僕を探し回っているようだね。ちょうど少し君と話したいことがあってね。十分後に図書館の南にあるベンチに来てくれ」
 ブツッと電話は切れた。電話を叩きつけるように置くと、急いで図書館に走る。
 遠くから見ると、暗くてよく分からないが誰かがベンチに座っている。この施設の中は、外の季節と日本時間にリンクしているようで、夜になると照明が暗くなるようになっていた。こうしないと、人間は体に変調をきたしてしまうようだ。
 竜崎はもう来ていた。近くで見ると床屋帰りのように頭髪が小ざっぱりとしている。写真そのままの風体をしていたが、少し疲れてるような顔だ。
「東条君だね。前に会ったかな?」
 自分の前のベンチに座る様に手で指し、顔を上げた。
「話したことは一度も無いですね。でも、あなたの口癖は社内でも有名ですよ」
 この時点で、彼が何かをしたというはっきりした証拠はまだない。ここはなるべく冷静に話すように努めた。
「僕はね、君のことを良く知っているよ。吉永愛里くんの恋人と言うことも、君が父親になったということも。そして――恋人を裏切ったこともね」
 口元に嫌な笑いを張り付けながら、俺に顔を近づけてくる。
「俺もいろいろ竜崎さんの事は知ってますよ。この施設を自分に都合のいいように作った張本人という事や、俺の友達を消去した事とかを」
 愛里の名前を聞いて冷静でいられなくなり、心臓がどくんと波打った。
「はいはいはい! 東条君、君は少し勘違いをしている。君の友達は消去されてなんかいないよ。彼らは『使用人』として他に移された。まあ、もう必要ないヤツらだけど命だけは助けたよ。彼らには施設の掃除係として一生働いてもらう。今ごろは『いっそ消去された方がましだ』と感じているかもしれないな。主に下水道の掃除だから、毎日それはそれは辛いだろう」
 ニヤニヤしながら俺の反応を伺っている。
「たかしは父親になったんですよ! 自分の子供に会えない上に、下水道の掃除係としてこれから一生暮らすんですか!」
 俺は完全に自分を見失った。竜崎に殴りかかろうとした瞬間、待ってましたとばかりに“何か”が足元で動いた。
「動かない方がいいよ、東条君。あっと言う間にそいつらが君を覆い尽くして、『消去』してしまうだろう。君もサラの最後を見ただろ?」
「やっぱり、サラを殺したのはあんたか!」
 言い終わらないうちに足元から気持ちわるい感触が湧きあがり、複数の透明なモノが俺の体に登って来ていた。
 数歩はそのまま歩けたが、その感触は言葉では言い表せない程におぞましく、全身に鳥肌がたち、ついには一歩も動けなくなった。その様子を見ている竜崎の顔は完全なる勝者の顔だ。
「東条君。僕はね、この地下の世界を自在にコントロールできるんだよ。例えば、君の大事な愛里くんも指先一本で簡単に消去できる。君に協力した掃除係の三人を消去しなかった事は、僕の優しさなんだよ」
 彼は薄ら笑いを浮かべ煙草に火を点けた。
 煙を吹き出しながらマーカーを何やら操作すると、体の表面を這い回っていたモノが足を伝って地面に降りて行く。だが、ヤツらはまだ近くにうようよいる気配がしている。なぜなら俺の周りの地面一帯が、うねうねと歪んでいるからだ。
「ところで、これからいいものを見せてやろう。ついて来なさい」
 勝ち誇ったようにそう言うと、後ろも振り返らずにすたすたと歩き出した。俺はさっきの気色悪い感触を思い出しながら、彼の後ろに着いて行った。今は竜崎が主導権を握っているが、隙を見て必ずひっくり返してやる!
 図書館の地下に入ると、一番奥の書棚に屈みこみ彼は何かを操作し始めた。
 すると……音もなく書棚が横に動き、通路がぽっかりと口を開ける。着いてこいという風に手招きされ、後ろに続きドアをくぐった。
 十分も歩いただろうか。分厚いドアが開き、中に入るとそこは……巨大なメインサーバーの森だった。
 入口には『Noah2ブレインシステム AI』と金色の文字で書かれている。その規模は、俺が仕事をしていたB‐ブロックのコンピュータルームの比ではない。
 この施設の中枢というべきエリアに足を踏み入れた俺は、怒りを忘れ感動すら覚えた。ここにはMICの技術力を結集した、世界最先端の技術が詰まっているのだ。
「ここに入るんだ」
 竜崎の示す方向には『特別情報処理室』と書いた部屋があった。サーバーの影に隠れるようにひっそりとした入口だったが、中に入ると意外な広さに圧倒される。
 その部屋の壁には見渡す限りモニターが並び、全てのモニターが別々の人物を追っていた。映るのは人の足だったり、天井から撮っているのだろうか、寝ている姿だったり様々だ。歩いている人を映していると思われるカメラは、驚くことに全くブレていない。
「おっと、吉永愛里くんだったな」
 機嫌よさそうに端末を操作すると、すぐに天井から撮っていると思われる映像が呼び出された。暖かそうな布団をかけた愛里がすやすや眠っている。
「竜崎さん、ここの人たちをこんな詳細に監視して何の意味があるんですか? そろそろ俺をここに連れてきた理由を教えて下さい」
 愛里の映像を見て安心するとともに、また怒りがふつふつと湧いてきた。愛里を常時監視しているヤツがいるということが許せなかった。
「僕は知ってるんだよおお。東条君、君は地上にいるハッカーと密かに端末で連絡をとっているね。カメレオンは個人を監視しながら、全てを映像に記録しているんだよおお。今映っているこの娘と裏コードでメールをしている事も、知ってるよおお」
 質問には答えず、ギョロっとした眼で俺を見た。