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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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運命


『エターナル』 一週間後 元旦


「明けましておめでとうございます。ってのは不謹慎でしたよね」
 国のそこかしこで、こんな新年のあいさつが聞こえてくる。
 一週間前の核攻撃がトリガーになり、世界に良くない事が起こった事を国民はうすうすと感じていた。その証拠に太陽光線は灰色の雲に遮られ、昼間でも薄暗いままだ。
 だが、エターナルの人々は放射線におびえることもなく、普通の生活をしていた。やはり大型L・D・Fは期待を裏切ることなく、放射線を含んだ大気を遮断してくれていたのだ。
 本部でも太田を始め那智博士、舟木、颯太、アイリーン他スタッフ一同が集まり、新年のあいさつを交わしていた。
「みなさん、明けましておめでとうございます。本当はこのようなあいさつは不適切だと思いますが、一回だけ言わせて下さい。こうして新年を迎えることができたのは、みなさんと、エターナル国民の協力のおかげです。まだまだ問題は山積みですが、力を合わせて努力すれば必ず解決できると信じています。では乾杯では無く、ここは献杯でお願いします」
 新年最初のあいさつを任された太田は、グラスを掲げる。
「では、献杯!」
「献杯!」
 みんな一斉に飲み干し、世界に起こった悲劇と亡くなった人々に黙祷をささげた。
 その後、立食パーティーになると太田は会場中を周り、スタッフ一人ひとりに声を掛けていた。
「太田さん、もうアイリーンさんにプロポーズしたんですか?」
 颯太はグラスを持ちながら太田に近づき、思い切って聞いてみた。
「いや、まだ全てが順調に行っている訳じゃないからなあ。酸素の問題もあるし。それが片付いたら挑戦してみるよ」
 照れくさそうな顔を一瞬みせたが、照れ隠しなのか翔太に急いで酒を注ぐ。
「いいじゃないか、太田君。こういう事は早い方がいいぞ。アイリーンも待っているようだし。何なら私が媒酌人をやるから、明日にでも結婚式をやろうじゃないか。はっはっは!」  もう顔を真っ赤にしながら、舟木は太田の肩を叩いた。
「舟木さん、飲みすぎですよ。夕方から会議ですからあまり飲まれると……」
 困った顔をしながらも、まんざらでも無いようすだ。
「ところで太田さん。地下施設と連絡を取る方法を考えたんですが、後で聞いてくれませんか?」
「分かった。俺も、地下施設の人々が全員無事なのか知りたい」
 新年を祝うというよりも、仕事の話になってしまうのは彼らには仕方ないことだ。
「太田君、原子力発電所の供給が少しオーバーワークになっておる。この際小型は一時止めたらどうかな?」
 博士が小声で進言する。
「そうですね。でも今止めると、万が一の時に逃げ場を失います。国民には使う電力を極力抑えてもらう方向で頼んでみます」
「頼むぞ。これからの事を考えると早い方がいいからの」
 博士はグラスを置くと、さっさと部屋を出て行った。彼には研究室の方が断然居心地がいいのだろう。
 アイリーンはと言うと、近くで外国人だけで集まって盛り上がっていた。そこだけ英語が飛び交い、まるでアメリカのパーティー会場みたいになっている。
「……Better late than never!」
「Wow!」
「Ha Ha Ha!」
 ここだけ聞くと“やらないよりはいい”という意味だが、アイリーンが言ったあと全員が爆笑している。シェリルも輪の中に混ざって、両手にチキンを持ってみんなと仲良くはしゃいでいた。ボビーは相変わらず大きなリアクションで、身をよじって嫌がるチャンを抱き上げ、キスをしまくっていた。
 一時的にだが、和やかな雰囲気で迎える正月にみんな満足していた。だがこの新年会が終わったら、各自またエターナルの存続に全力を注がねばならない。誰かがミスをしたら、全滅という緊張感のもとで。
 いったい世界には今どれくらいの人が生き伸びているのだろう。連絡する手段が断たれた今、それを正確に知る者は誰もいない。