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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「ええ、ジゼルが急に結婚式だなんて言い出すから、今日に間に合わせるためにイデアからとんぼ返りよ。本当はゆっくりしてこようと思ってたのに、鬼のような娘だわ。」
「あはは、ごめんね。私とアレクの為に。」
「いいわよん、エドもアレクもあたしにとっては娘と息子みたいなものだしね。それに元々はあたしがお膳立てしたわけだし。それよりどうしたの?めでたい日だっていうのに、あまり元気がないじゃない。」
「うん・・・。ねえ、アンはもともとルチアさんと結婚するつもりだったんだよね。ソフィアのことがわかる前から。」
「・・・ああ・・・聞いたのか。」
 エドの言葉を聞いて、アンドラーシュは一瞬の沈黙の後、女ことばをやめて、普通にしゃべりだした。
「うん。ソフィアとジゼルから大体のところは。結婚するつもりだったっていうなら、やっぱりルチアさんにプロポーズとかしたの?」
「・・・まあ、そりゃあな。ジゼルが生まれる前・・・もっと言えばソフィアを授かる前には婚約も終わっていたから、プロポーズもしたし、指輪も渡した。・・・そういえばあの指輪返してもらってないな。」
「うわ、みみっちいなあ。侯爵様でしょ。そのくらいあげればいいのに。」
「いや、返してもらっていないから、もしかしたらまだ婚約は有効なのかなと思ってさ。」
「・・・ルチアさん、セロトニアに恋人居るよ。」
「・・・・・・そうか。まあ、いい女だからな。」
 そう言ってアンドラーシュは気にしていないように装うが、視線がキョロキョロと動いていて落ち着かない。そんな彼の様子を見てエドが吹き出した。
「あはは、ゴメン。今の話は嘘。」
「大人をからかうな!・・・まあ、でもそっか。あいつも一人なんだな。」
 すこし嬉しそうな。はにかんだような笑顔を浮かべてアンドラーシュがつぶやく。
「ねえ、アンがルチアさんにどんなプロポーズしたのか、教えてくれる?」
「藪から棒に。そういうのは当人同士が知っていればいいだけの話だろう。」
「だって、私は娘みたいなものなんでしょ?娘としてはお父さんがどういうプロポーズをしたのかって気になるじゃない。」
「そういう所はジゼルそっくりだな。まったく、うちの娘達は父親に対して容赦がない。・・・まあ、プロポーズと言ってもそんなにロマンチックな言葉じゃないぞ。」
「それでもいいから、聞きたいな。」
「・・・もう浮気はしないから、嘘をついていないか一生俺の側で見張っていてくれ。ってさ。」
「うん。ロマンのかけらもないね。」
 バッサリと一言で一刀両断したエドの言葉を聞いてアンドラーシュは苦笑した。
「だから先に言っただろう。自分で言うのもどうかと思うけど、俺は遊び人だったからな。それでも本気だったのはルチアだけだったんだが、俺がいくらロマンチックな言葉を並べ立てても、ルチアは信用してくれなかったんだ。ただ、さっきの言葉を言った時だけはちゃんと取り合ってくれて『仕方ないな』とか言いながら頷いてくれたんだよ。今考えてみれば、上っ面の言葉じゃなくて、飾り気のない俺の本心っていうのをちゃんと聞きたかったってことなんだろ。」
「そういうところまで聞くと、ちょっとだけカッコイイかも。」
「そういうエドはどうなんだ?アレクからどんなことを言われたんだ。」
「それがね。まだ言われてないんだ。私もクロエも。」
「え?・・・なんだって?聞き間違いか?プロポーズを受けてない?」
「うん。」
 あっけらかんとしたエドの返事を聞いてアンドラーシュは頭を抱えた。
「あの・・・バカ甥は・・・。じゃあ、アレクの所に行こう。このまま流れで婚礼の式典なんてしたら後悔するぞ。」
「うーん・・・多分それはそうなんだろうけど・・・さっきまでクロエともその話をしていたんだよね、そういうのって、こっちから催促するものでもないよねって。」
「普通はそうでも、アレクに関してはちょっと違うぞ。あいつは普通よりもよっぽど鈍いし、抜けている。」
「ああ・・・。たしかにそうかも。」
「一生に一度のことなんだから。ちゃんとしなきゃだめだ。」
 アンドラーシュはそう言ってエドをテラスから連れだした。

「ヘクトール!メイ!」
 廊下を歩いていた二人が後ろから声をかけられて振り向くと、エドとアンドラーシュが廊下の向こうから手を振っていた。
「珍しいくみあわせだニャあ。」
 何か急いでいる様子で駆け寄ってくるエドとアンドラーシュを見てメイが呟く。
「そうだな・・・どうかなさいましたか、エーデルガルド様。」
「アレク見なかった?控室にいなかったんだけど。」
「アレクシス様ですか・・・いえ、見ておりませんが。何か急用ですか?」
「あ・・・いや。急用っていうほどのことでも・・・ないんだけど。」
 エドはアレクシスからプロポーズを受けていないことを正直にヘクトールに伝えていいものか迷い、一度その話は伏せることにした。
「そうですか?・・・ああ、そういえば先ほどキャシーがアレクシス様の控室に飲み物を運んでいったはずですので、キャシーに聞いてみるのはどうでしょう。」
「キャシーだね。わかった。ありがとう。」
 そう言って踵を返して走りだすエドと一緒に行こうとしたアンドラーシュの襟首をヘクトールが掴んだ。
「ちょっと、待て。」
「グエッ・・・な、なによヘクトール。」
「エーデルガルド様は今になってなぜアレクシス様を探しているんだ?どうせ、もうすぐ会えるのに。」
「・・・それはアタシの口からは言えないわね。後でエドに聞きなさいな。」
「問題か?」
「問題だけど、あの子達の問題だから。大げさにする必要はないわ。」
「ならいい。エーデルガルド様を頼む。」
 そう言ってヘクトールはアンドラーシュの襟首を離した。
「はいはい、了解。ああ、そうだメイ。」
「ニャン?」
「悪いけど警備をよろしくね。クロエもレオも今日はそっちには回せないから。」
「あいよー。まあ、警ら隊もいるし、ジュロメの人間も半分は戻ってきているからね。警備は十分すぎるほど厳重だから安心していいニャ。」
「気を抜いちゃだめよ。シャノンの例もあるんだから。」
「はいはい。わかったから、早くエドと一緒に行ってあげなさいって。」
メイはそう言って笑いながらアンドラーシュの肩を押した。
「・・・いや、これは二人の問題だし、アタシはもうついていかなくてもいいかなと思うのよね。この先はアレクとエドの問題。その場にい合わせてもなんとなく気恥ずかしいし、二人にバツの悪い思いをさせちゃうから。」
「そうか、なら一緒に控室へ向かおう。お前もまだ、準備が終わっているわけじゃないんだろう?」
「ああ、そうね。そうしましょうか。」
 三人の反応は仕方のないものだったろう。ジュロメを抜かない限りは皇帝の軍勢はアミサガンへ到達することはできない。例えシャノンのように単身乗り込んでくるような刺客がいたとしても二人の側にいるレオが十分に対処することができる。
 警備の状況や、二人の周りに居る人間の能力を十分に知っていればいるほど、その慢心と油断は生まれる。
 この時点でそれを予測できなかったとしても誰も三人を責めることはできないだろう。