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ブリュンヒルデの自己犠牲

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フィジカル・グラフィティ《Physical Graffiti 》

〜 ブリュンヒルデの自己犠牲 〜

朱鷺羽 翼(ときはね つばさ)

* * *

『保健体育はエリートの証?』


「全員席についたか!? それでは今から保健体育のテストの結果を発表する。
一位! 女子、葛城千鶴」
 「ハイッ」と一人の女子生徒が起立すると同時に教壇に立つ教師から点数が発表された。
「396点! 見事だ。学課である『保健』は200点の満点。実技が中心の『体育』は偏差値修正方式のため満点はないが、女子のトップであることに変わりはない。よくやった!」
「当然です、教官。保健体育の成績こそエリートの証ですから」
「うむ。流石、葛城は分かっているな。保健体育こそエリートの証。エリートとは頭脳だけではない。健全なる身体の成長、発育を伴って初めて真のエリートと言える。それにはこの保健体育を極めることが必須だ。特に第二次成長期を過ぎ、体が大人として完成に近づくこの時期こそ重要だ。その点、お前の身体は発育も申し分ない。それはこの保健体育のテストの結果が証明している」
「ありがとうございます。教官!」
 その女子生徒はセクハラとも誤解されかねない教師の言葉を当然の様に受け止め、姿勢を正し凛とした声で答えた。事実、彼女の身体は制服越しにも均整の取れた美しい身体であることが見て分かる。身長は165cm程度とやや高めで、ウェストからヒップ、両足にかけての引き締まった身体ではあるが決して痩せた身体ではなく、胸の膨らみは制服のブラウスを適度に盛り上げていた。そして引き締まったその凛々しい顔と瑞々しい肌は――、つまり美人でないはずがない。
「次、二位! 男子、楠木正幸」
「ハイッ」名前を呼ばれた男子生徒が直立不動の美しい姿勢で勢いよく立ち上がる。こちらの男子生徒も彼女同様、身体に余計な脂肪もなければ無駄な筋肉もない均整の取れた体付きだ。これで清潔感のある顔で精悍であれば――、これまたイケてないはずがない。
「392点! これも見事だ。『保健』は葛城と同じく200点満点。『体育』は192点だが、点数が負けたらと言って決して葛城に劣っている訳ではないぞ。もともと男子と女子は基礎体力が違う。公平に能力を計算することは出来ん。葛城との点差は統計上の誤差と言って良い位だ。
「ハイ、分かっています。僕の最高の女子とパートナーを組めるのです。彼女の実力を喜びこそすれ、妬む事などありません」
「うむ、その通りだ。お前達はこれからの『保健の実技』でもパートナーを組むことになる。だが勘違いするなよ。あくまで身体だけの関係だ。男女でパートナーを組ませるのはこれからの実技のためだけではない。将来お前達が『保健』を指導する立場になった時、異性の肉体的反応も分からなくては話にもならん。男女は生理的現象も含め全く別物と言って良いからな。もっとも学科もパーフェクトなお前ら二人だ。これからの『実技』も問題はないだろう」
「「ハイッ」」と二人の生徒は返事をすると、互いに視線を合わせ握手した。
「よろしくね、楠木君」
「こちらこそよろしく。葛城さん、君とパートナーを組めて光栄だよ」
「二人とも着席してよーーし。それでは次からはパートナーを組むべき相手が分かるよう、男女交互に名前を呼ぶ。互いのパートナーは事前の申請がない限り成績順によって決まる。異存はないな?」
「「「ハイッ」」」」教室の生徒達は一斉に返事をした。
「では読み上げる。男子、瀬名雄二、380点。女子、雪乃月姫乃、379点。次、男子、鷹司宮路、375点。女子、若槻瑞希、378点。次、男子………………………………以上だ。
これて全員パートナーは決まったな。それではこれより保健科目の『実技』を始める!
まず制服の上着を脱げ――。ネクタイを外し、ボタンも外せ――。
「「「ハイッ」」」
 生徒達は教師の指示通り、男女のペアで向かい合いながら上着を脱ぎ始めた――。

「よーし、各自準備は出来たか? ではまずそこを触ってみろ。そうだ、血管が浮き出ているだろう。脈を打っているのが分かるはずだ――。これからいよいよ実技の第一段階を始める訳だが、まあそれ程緊張する必要もない。慣れてしまえばそんな難しいことではないからな。実際、既に経験のある者もいるとは思うが――、知識のあるものは好奇心に負けて既にやってしまった者もいるだろう。だが今更それは問わん。ただ本来正しい知識がなければ、大変なことになりかねん。この保健の授業を受けていない者は行っていけない行為だ。それを肝に命じておく様に!
「「「ハイッ」」」
では挿入する位置を確認できたペアから、順次始めてよし。保健の学課の通りやってみろ」

「ちょっと葛城さん――」
先程の男子生徒は女子生徒に小声で話しかけた。ただ人に聞かれて困る――ということでもない様だ。教師には聞こえない。だが隣のペアには聞えても構わない。その程度の小声だった。
「なあに、楠木君?」
「葛城さん、どう? 経験はあるの?」
「実を言うと、自分ではもう何度もやってるわ」
「やっぱりね。そうだと思ったよ――。実技の経験がなくちゃあ、試験だってあんな完璧な点数取れるないもんねえ」
「フフフ……。そうゆう、楠木君はどうなの?」
「もちろんあるから大丈夫。下手にやって痛くしないからさ。女の人にもしたことあるしね」
「フフフ……、それで随分慣れた手つきなんだ? でも経験のある人で良かったわ。無理矢理入れられて、血が出ちゃったりするのも嫌だし。それじゃあ、お願い。入れて良いわよ」
「ああ、じゃあいくよ」
「ええ、いいわ――」

 そう言って、彼は注射器の針を――、彼女の左腕の血管に挿入した――。

 200X年、自転車ロードレースの世界最高の祭典、ツール・ド・フランスで優勝を目前にした有力選手がドーピングの容疑で逮捕された。
その選手は他を圧倒するパフォーマンスとその数々の勝利により以前よりドーピングの噂が絶えなかったが、これまでのドーピングチェックでも薬物等は一切発見されていないこと。また冷静沈着なレース戦略からも精神興奮作用のあるドーピングはあり得ないとも言われていた。
 その選手の医師から今回、薬品、注射器等が発見、押収されたことで、ドーピング疑惑は決定的なものになったと思われたのだが――、その選手はこれだけの物的証拠を押収され、しかも担当の医師も容疑を認めているにも関わらず、ドーピング検査で“シロ”であることを理由に容疑を否認。事実今回のレース中に採取された血液サンプルから陽性反応はなく、“クロ”と断定できる直接的証拠は全く発見されてなかった。