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大罪を犯す

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「さて、君は何を願う?」

 そう問われたが、果たして自分は願いを口にするにふさわしい人間かと自問する。自分などよりもよほど叶えられるべき願いを持っている人間がいるのではないだろうか。ずっと怠惰に生きてきた。己の意見など持たず周囲に流されるだけだった。いや意見など述べて何になるのだろう。周囲の人間は上辺だけの肯定と共感を語り裏では罵詈雑言を並べ立てるだけなのだ。そんな中で自分の意見など持って何になる? 願いを語って何になる? 軽蔑され嘲笑され中傷されるだけである。大衆の中にあって許されるのは多数に媚びへつらう台詞だけなのだ。あるいは大衆の上に君臨する強者にか。彼らは自分と同じことを言い同じことをしようと軽蔑されることも嘲笑されることもない。何も違わずどこも優れていないのに多くの人に好かれあるいは讃えられ許されるのだ。そういう輩を見るたびに底の知れない怒りが湧きあがる。奴らのどこが特別なのだ。一体自分と何が違う。ただ声が大きく恥を知らないだけではないか。救いようもないほど愚かな奴らではないか。愚か者には怒りを抱く。騒々しく馴れ馴れしく大したことでもないのに自慢する。あるいは楽観的にものを語り理想を並べ立てる。話しさえすればどんな人間とでも分かり合えると信じている。彼らは現実を知らないのだろうか。あるいは自分がそれをなしえるほど特別な人間だと信じているのだろうか。どちらにせよ愚かしいことだ。あんな輩にはなりたくない。自分が求めるのは愚かさではなく賢さだ。媚びへつらうことしか知らない大衆とそれに囲まれ酔いしれる愚者であるよりも孤高で孤独な賢者でありたい。賢い者となる方が良いに決まってる。力を持つのは常に愚か者だが真に優れた人間は注目されなくても知られていなくても価値がある。愚かな大衆は愚か故に愚か者に惹かれるのだろう。騙されるのだろう。だが自分は違う。賢い者はいつだって優れている。その価値は他者の存在に依存しない。賢者であるためなら貪欲とも言えるほど知識を求める。頭を空っぽのままにしておくなんて嫌だ。この世のありとあらゆることを知りたい。知識こそ全て。強欲だと知りつつもこの世の全ての知識を求める。他者の知らぬことを知り思いもつかぬことを思いつく。それはある意味神と同じではないか。少なくとも他者に囲まれることを価値とする者とは違う。そして孤高を求める。孤独を求める。優れた者は常に一人なのだ。対等な友人も並び歩く仲間も安らげる家族もいらない。必要ない。ただ賢く優れた者でありたい。いやすでにそうなのだ。自分は賢く優れていてそれ故に一人である。これからも一人であり続ける。他人なんていらない。愛おしい恋人も愛する伴侶も不要だ。いやそもそも欲しいと感じたことがない。全くと言っていいほど興味が湧かない。過剰な色欲は罪だと言われるが、全くないのもまた罪ではないだろうか。異性であろうと同性であろうとあるいは縦と横の概念の中に住む人物であろうと他者というものに恋情も愛情も感じたことなどない。色欲もまた然りである。産めよ増やせよと神は言った。人間が生物として存在し子孫を残すことが生物が生物たる使命だというのなら色欲すら感じられぬ人間は生物ですらないのではないだろうか。近頃の若者は恋愛に興味がないとか草食化してるとか言われているけど彼らは恋情や愛情に基づいた脆い人間関係を構築することに興味がないのであって色欲までも失せてしまったわけではない。むしろ夢と現実のギャップを割り切れず違う方法で発散しようとするだけであろう。人としてあるべき欲望すらなくなってしまったらそれは人ではないのではなかろうか。種の保存に貢献できないどころかする意欲すらないのだから生物ですらないのかもしれない。あるいはそんなことに関わる必要はないということだろうか。きっとそうだろう。異性に好かれることにいかほどの価値がある。昔は異性に好かれる奴らに嫉妬していたこともあったが今はどうでもいい。嫉妬など負け犬の持つ感情だ。優れた人間は嫉妬などしないし下賤なこととも関わり合いにならない。もっと高尚なことを追い求め至高の存在になることを望む。知恵のある者となるためなら楽園にあるという禁断の果実すら喰いつくそう。いや禁断の果実を食すにふさわしい人間など他にいるのだろうか。孤高であり孤独であり賢く優れた者。愚かさを知り賢くあろうとする者。価値ある者。それが自分。

 そして再び自問する。果たして自分は願いを口にするにふさわしい人間かと。
作品名:大罪を犯す 作家名:紫苑