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 私は一介のパソコンオタである。
 日本のそこかしこに蠢くパソコンオタどもの芥の一人。できることと言えばフリーソフトの解析程度が精々で、創造的な行動を何一つできないただの消費者である。
 社会で生きる人間の多くは消費者、探求者、生産者、創造者、管理者の五タイプに分類できる。私はその中の消費者に当たるだろう。
 私は生産者ほどの技術を持たず、創造者並みの才能や探求者並みの体力・知性を持ち合わせていない。まして、管理者並みのコネ・権力など持ったことはない。
 故、私は消費者なのだ。資本主義社会を支える根底概念。消費。ただ使うだけ、消費するだけの一般的な人間なのだ。
 私はその中でも人の作ったモノを弄り回して消費する程度の本当につまらない類いのモノなのだ。
 最近の趣味と言えば、フリーソフトの中身を開いて、その中にあるコメントを覗くことだ。
 コンピュータ言語に置けるコメントとは、データ自体は記述されているが、プログラムが動く際に無視される文章である。プログラム内の記述言語にこの処理を行う事をコメント化、用語で語るならコメントアウトと呼ぶ。
 プログラム言語の中身、言語一部を一時的に無機能化する為、言語記述の際や修正、新機能の実装等の為に利用される。特に多い利用方法が、プログラムを走らせる際に無視される、という特性を利用して、人間が解釈しやすいようにデータの説明や整理の為に用いられることだ。
 また、特殊なソフトで解析しなければ覗くことができない、覗こうとも思わない人間の多いデータの中身である為、たまにプログラムと直接関係ない落書きをしているソフトもあったりする。
 その時の製作事情だったり、製作者の愚痴、どらやきおいしいなど、その内容は落書きを施した人間の数ほどある。その落書きを読むことで、製作者・創造者のことを少しでも理解し、近付き、同じ人間であることに安堵を覚えることができる。少なくとも、私はそうだった。
 そして、それは世界を覗くことに等しい。他人の覚書を覗いて、他人と言う世界に触れる。そういうことでしか、私は世界と関われない。それが精一杯なのだ。
 プログラムを一から組むことはできない。ただ、半端にファイルの中身を覗くことができる程度の矮小な人間だ。
 ――神はどうして、私のような人間を作るのだろうかと思う時がある。神が創りあげた『世界』というプログラムの中で走る私というバグは、ただ意味のない処理を行い続けるのだ。そして『世界』のリソースをただ食いつぶして行く。
 ただの妄想だ。私はそんなことを考え続けられるような哲学者ではない。ただ、ちょっとした不満を頭の中でこねくり回すだけなのだ。それが、私が精一杯、『世界』の中で産むことができるモノであった。
 今日も適当にフリーソフトをダウンロードしては解析する。結果は坊主だった。

 腹が空いたので外へ出る。コンビニに行くのだ。残念なことに冷蔵庫の中身は空であるのだ。
 夜闇が濃くなる。群雲に月は隠れ、街は闇に閉ざされる。
 闇の向こうに潜む化け物を想う。それは牙が生えているのだろうか。夜目は利くのだろうか。二足歩行なのだろうか。――刃物を手にしているのだろうか。
 嗚呼、怖い怖い。お化けなんかより人間の方が怖いのだ。夜街では人の姿を見る方が怖い。
 怖いというのに、私はその恐怖心と好奇心を天秤にかけているのだ。今日もそうだ。猫を殺す好奇心に絆され、闇へ闇へと突き進んでゆく。
 影でこそこそと何かが囁いている。そんな妄想めいた恐怖心が心臓を叩く。その心臓の鼓動が、嫌に心地よい。酒に溺れるような高揚感。暗闇のアルコールは少しずつ私の心を満たし、恐怖心を満たし、そして好奇心を満たす。やがて満たされた恐怖心はマヒして、好奇心は暴走する。
 群雲から月が顔を出した。月明かりは暗影に光を指す。すると、その月明かりの下にはは今までいなかった女が座っていた。
 女、と表現したが、それは正確ではないかもしれない。背恰好は確かに女のようであるが、頭から被った外套の所為で良く分からないのだ。
 どこからか甘い匂いが漂ってくる。果実が熟れた匂いだ。
 女は言った。
「Hello……」
「へ、へろー」
「Hello,World!!」
 女は立ち上がってそう叫ぶ。そして、無感情な瞳でこちらを見つめ、やがて闇の溶けて消える。私はその言いようのない不安と不気味さで腰を抜かしてしまった。
 私は転げるように自宅に逃げ帰る。自宅は外出した時と同じように、パソコンの画面の明かりが部屋を照らしていた。その暗い部屋に、私は言いようのない安心感を覚えた。
「ハハ、ハハハッ!」
 まるで夢を見ていた気分だった。私はパソコンの前に座る。
「メール?」
 メールが届いていた。どうやら外出していた頃に届いたようだ。見覚えのないアドレスで、メールには何かが添付されている。普通なら開かない方がいいが、私は複数台のパソコンを常備しており、これはウィルス等に感染しても問題ないパソコンだ。ウィルスチェックの後にその添付ファイルを開く。
 添付ファイルはexeファイルだった。exeファイルにいい思い出はあまりないが、とりあえず起動させてみた。
 ダイアログボックスが開き、文字が打ち出される。
『Hello,World!!』
「――う、うわぁあっ!」
 ダイアログボックスには、そう表示されていた。
 何故、何故このタイミングなのだろうか。なんでこのタイミングにこんなプログラムが送りつけられたのだ?
 気持ちが悪い。さっさとゴミ箱に打ち込もう。そう思ったのだが、何故か私は、そのexeファイルの展開を開始する。
 そうだ。多くの神話物語の主人公のように、私は見てはいけないモノを覗いてしまうのだ。
 ――私は、イザナギと同じ過ちを犯してしまったようだ。

『 /*Hello,World. And...*/
/*Let kill a thousand people.*/ 』

 破滅願望が嗤う。
作品名:コメントアウト 作家名:最中の中