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関西夫夫 明石焼き

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出勤の前に、カレンダーを眺めて、俺の嫁が、「死ね、ボケッッ、どあほ。」 と、悪態をつくのは、いつものことだ。それから、「明石焼き食いたい。」 と、ぽつりと漏らした。
「ああ? 明石焼きなんか食うたら、ええやろ? なんや、烏こっけーの明石焼きでもあんのか? 」
 ネクタイを締めながら、俺が声をかけたら、「あらへんのや。どあほっっ。」 と、悪態を吐きつつ出勤して行った。あれ? と、思ったものの、真相は帰ってから問い質すことにした。ま、とりあえず、晩飯で考慮はしたろ、と、晩のメニューに取り入れる予定はした。



 うちは共稼ぎで、俺の嫁のほうが帰りは遅い。ということで、俺が晩飯を作る。過激な残業ウィークとなると、深夜帰宅になる俺の嫁は、超絶猫舌で、メシなんか一日一回食ったら生きてられる、を実践していたアホなんで、それほど興味もないから適当になる。それで、何度も栄養失調で倒れているので、俺は有無を言わさず食わすことにしている。そんなわけで、今夜は、明石焼きをしてやることにした。まあ、それほど難しいもんでもないけど、たこ焼き器がないんで、そこいらは適当や。
 それだけでは栄養が偏るので、ほうれん草のおひたしとシシャモも焼いた。
「まあ、こんなとこや。」
 なんせ、超絶猫舌なので、熱々の出来立てなんてものは食えない。だから、まず作って冷ましておく。汁物は特に、そうしないとヤケドしやがる。今日は、九時には帰ってくるので、そのまんま放置する。元々、俺は猫舌ではなかったが、温めなおすのも面倒で同んなじモンを食ってたら、別に熱くなくてもええように慣らされた。というわけで、うちには、たこ焼き器がない。

熱々の出来立てなんか作っても怒るアホがおるので。


「たでぇーま。」
 玄関の扉が開いて、草臥れた声がする。そのまま、廊下を歩く音がして、居間に俺の嫁が現れた。
「おかえりやす。」
「ススキがキレイになってきたな。」
「・・・・おまえ、また鑑賞しとったな? そんなんしとらんと早よ、帰ってこんけ。」
「いや、歩きながらやで。」
 文句を吐きながら着替えをして、俺の嫁は食卓に座る。すでに、食卓には料理が並んでいる。一点で、俺の嫁の目が留まった。
「これ、なに? 」
「お望みの明石焼き。」
「はぁぁぁぁぁぁぁ? トボケとんのか? これ、オムレツのあんかけやろ? 」
 まあ、見た目には、そうなるやろう。明石焼きは、たこ焼き器で作る玉子焼きのようなもので、中身はタコが入っている。それを出汁で食うのが普通。俺が作ったのは、中身にタコが入ったオムレツで、これを出汁に浮かべてある。色合いに、ネギ、薬味に紅ショウガやから、見た目にはオムレツというのは、俺の嫁の意見は正しい。
「せやから明石焼き。」
「まだ、言うか。俺が食いたいのは、明石焼きや。」
 そう言いながら、オムレツを箸でふたつにぶちきった。もちろん、中からはタコが出て来る。ぶつ切りのタコが、ころころと出て来るに到って、ようやく、おおっと驚いた顔をした。
「それ、スプーンで食うたほうがええで? ほれ。」
 柔らかくしといたので、箸ではホロホロと零れる。スプーンですくって口に入れて、あーという納得した顔になった。
「なあ? 明石焼きやろ? 」
 見た目は違うが、内容物は同じなので口に入れれば、同じものだ。はぐはぐと、それだけを食べているところを見ると、おいしいらしい。
「ちゃんと、ごはん食べや? それだけで、ごちそさんしたらシバくで。」
「わーってる。」
 でも、スプーンは激しく往復している。とりあえず、食べ尽くすつもりらしいんで、俺はシシャモにかじりついた。腹は減ってるんで、俺のほうはメシで、がっつり腹を満たす。明石焼きは、小ぶりのオムレツで、出汁を大目にしといたから、汁物替わりってとこやった。これ、出汁がうまないとあかんので、それなりに出汁には気をつこた。市販の出汁に、昆布を足して、薄目に作ってある。それに、塩だけしたオムレツを浮かべてあるんで、まあ、ええ感じやとは自画自賛しておく。

 しばらくして、俺の嫁が、白メシに手を伸ばしたから、朝の言葉を尋ねてみた。腹は落ち着いたのか、俺の嫁も口を開く。
「なんで、明石焼き食いたかったん? あんなん昼飯に食えるもんやろ? 出られへんのか? 」
 だいたい、明石焼きというのは、おやつか昼飯メニューだ。ちょい食うぐらいなら十分とかからないので、時間のない昼飯には、ちょうどええし、小腹が空いた時にも最適や。たこ焼きほど腹にはたまらへんので、俺の嫁の腹にも、ちょうどええらしい。難点は熱いことと出汁つけなあかんから、店でしか食われへんとこやと思う。たこ焼きのように外で食えるもんではない。
「あのな、前のとこには、近くにあったんやけど、今のとこにはあらへんね。ほんで、食べられへんのや。」
 俺の嫁は、職場の場所が最近、変ったので、食べるところがないらしい。なんせ、出不精で食い意地のない俺の嫁は探すこともせーへんから、食べられないのだろう。
「そうなんか。これでよかったら作ったるで?」
「うん、これはこれでええな。 ・・・・これだけでもええ。」
「どあほ。これだけやったら、野菜が足らんわ。」
「野菜なんか食べても意味ないのに、うるさいのー。」
 そう言いながら、俺の嫁は明石焼きの出汁まで飲み干し、ほうれん草のおひたしに手を出した。これも醤油ぶっかけではなくて、出汁醤油を水でのばしたやつをかけてある。塩分過多にならんように、そろそろ気を付ける年ごろになった。
「見た目にメタボやのーても、内臓がメタボやと病気になんねん。」
「そんなもんか? 」
「そんなもんや。」
「出てきたもんは食えばええやろ? 」
「そーそー、うちの嫁はかしこいなー。」
「じゃかましいわ。」
 シシャモを頭からかぶりついて、悪態をついている俺の嫁は、大変可愛いと思うのは、俺だけなんやろうな、と、俺は内心で爆笑した。
作品名:関西夫夫 明石焼き 作家名:篠義