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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 14

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第52章 母の祈り


 レムリアの町外れ、大海原を一望できる原に一人の女性がいた。
 水色の腰元まで真っ直ぐ伸びた髪を持ち、ダイヤ柄のストールを羽織っている。体はとても小さく、誰かと話しをするときはその人を見上げなければならないほどである。
 レムリアの民は総じて美男美女が多い。それも何百年という月日をその姿でいる事ができる。老いが訪れるのは千年以上生きた者、そして死が訪れるのは万年を生きた者、である。
 原に一人佇む女もその例に漏れず、大きな瞳、長い睫を持ち、鼻は小さく、唇はとても艶やかであった。彼女の隣をすれ違う男達は間違いなく振り返るだろう。それほどの美貌をもっていた。
 しかし、外見はレムリア人の例に漏れなかったが、一つ、彼女には例外があった。
 頬が若干痩けており、風に靡くストールを押さえる手も非常に細く、骨が透くほどであった。
 ふと、女は額から小さな胸へ、撫でた両肩へ指先を動かした。十字を切ったのである。そして両の手を合わせ、指の間に指を挟み込み、握った。
 そっと目を閉じ、大海原へと祈りを捧げた。
 彼女の背後からざっ、ざっ、と草を踏みしめ、彼女に駆け寄ってくる音がした。
「やっと見つけた!」
 現れたのは一人の男である。彼女と同様水色の髪をしている。中性的な容姿でどことなく彼女と雰囲気が似ている男である。
「あら、ウィズル。どうしたの?そんなに慌てて」
 ウィズルと呼ばれた男はあちこちを走り回っていたのか、すっかり息を切らしていた。
「ハア…、ハア…。どうしたの、じゃないだろう、姉さん。お医者様に安静にしてろって言われてるだろ!?全く、町中探したよ」
 女は微笑む。
「それはお疲れだったわね」
「ネティス姉さん!」
 女、ネティスは弟とは対照的にのん気に振る舞っていた。
「さあ、帰るよ!帰ったらすぐに寝ててもらうからね!それから三日間は外出禁止!」
「え〜、そんな〜」
「え〜、じゃないよ!姉さん分かってるのか!?自分の体がどんな状態なのか」
 ウィズルがここまでに強く言うのには理由があった。
 ネティスは生まれつき、心臓に病を持っていた。千年以上生きるのが当然であるレムリアにおいては異例の千年どころか、半分も生きられるか、それさえも危ぶまれる病であった。
 すっかりと痩せてしまった体はそのためであった。弟のウィズルとの身長差は彼が若干大きいのも理由であるが、大人とある程度成長した子供ほどの差があった。
「やれやれ…、うるさい弟ね。せっかくあなたが買い出しに出かけた隙を見てベッドを抜け出したのに…」
「うるさいって何だよ!?俺は姉さんを心配して…」
「私はそれ以上の心配をしているの、ウィズルにも分かるでしょ?」
「それは…」
 子を想う母親の気持ちは病気の姉を持つ弟の気持ちよりも大きかった。
「あの子が、ピカードが島を出てから約半年、私はずっとあの子の事を心配しているの」
「姉さん…」
 ウィズルにとっては甥であるピカードの事も、彼には気懸かりであった。王からの直々の命を受け、旅立つその前日、船で準備をしていたピカードに海魔神ポセイドンによる津波が襲いかかった。
 ピカードは船ごとレムリアから消えてしまった。無事に島の外に出られたのか、それともそのまま沈んでしまったのか。
 そんな子を持つ母親の気持ちは想像に難くなかった。
「私はね、きっとピカードは無事だと思うのよ。レムリアで一番の力を持っていたあの人の子ですもの。きっとどんな事でも跳ね返しているに違いないわ」
 ピカードの父は、ピカードが子供だった時に既に他界している。事故により亡くなったのである。生前は武術に長け、ピカードにその稽古をつけていた。
 そして当時行われていたレムリアの力自慢が集う武術大会でも他を圧倒する力で優勝していた。
 ピカードが王より直々に命令を受けたのも彼の子である事が理由の一つであった。
「私は見ての通り、もうすぐ死ぬわ。だから、せめてあの子の無事を祈りたいの。島の外、この海の向こうに行ったはずのピカードが帰ってきますようにってね。何もしないで寝てるなんてまっぴらよ…」
 ネティスはこほ、こほと咳き込んだ。
「姉さん、そろそろ家に帰ろう。体に障るから…」
「ごほ…、そうね。私には義務があるから、ピカードを、生きて迎えてあげる使命がね…」
 ネティスとウィズルの姉弟は弟が姉の手を握り、背中を抑えながらゆっくりと海の見える原を後にした。
 それからというもの、ネティスの病は少しずつ、しかし急速に彼女を蝕んでいった。歩行するだけで心臓が高鳴り、少し外を出ただけで倒れてしまうようになってしまった。一日のほとんどをベッドで過ごすといった生活を強いられた。
 それでも毎日ピカードの無事は祈り続けた。外にはウィズルが絶対に出してはくれないので、家の中から海の方向へ祈りを捧げた。
 ある日の事、ネティスはウィズルの隙をついて家の外へと出かけた。向かう先はあの海原の見える原である。
 十字を切り、海へ向かって一人息子の無事を祈った。その時だった
「うっ!げほ、げほ…!ごほ!」
 ネティスに発作が起きた。心臓は激しく脈動し、胸が締め付けられるようだった。
 ネティスは苦しい胸を抑えその場に膝を付いた。
「っ!?姉さん!」
 ウィズルは姉の消えた事に気付くと、すぐに行き先が分かった。そして来てみると、姉は苦しそうに肩で息をし、地面に膝を付いていた。
 ネティスはすぐに医者へと運ばれた。そして医者より残酷な告知がなされた。
 保って後半年の命、それも半年生きれば良い方で、実のところもう、ふた月生きられるかどうかも怪しいほどだった。
 優れた医術を持つレムリアの医者の言うことだった。この医者は、レムリアに唯一存在する医者であり、これまで病気にかかった人物をたくさん診てきた。
 彼の医術は、人を回復させる事に特化したエナジーであり、大概の病であればたちどころに治してしまうほどだった。しかし、レムリアにも例外的に重い病を持つ者が現れる。そうした者はどうにか延命させるのが限界だった。
 それほどまでの名医の言うことである。延命する事も難しいという言葉に絶望を抱いたのはウィズルだった。
「そんな…、何とか、何とか姉さんを助ける方法はないんですか!?」
「ウィズルや、ワシも何千年と医者をやってきおった。じゃが、ワシにも治せん病はいくつもあった。ワシももう少し若ければせめて彼女の命を百年は延ばすことができたんじゃがな…」
「先生にも治せないってなんなんだよ!?何とか、本当に何とかならないのか!?」
 ウィズルは狂乱し、医師の白衣につかみかかった。辺りの医術師達は彼を止めようとした。
「よしなさい、ウィズル!」
 ネティスは怒鳴った。彼女の怒鳴った声を聞く者は皆初めての事で、医師につかみかかっていたウィズルも動きを止めた。
「ごめんなさいね、マーティン先生。弟がとんでもない粗相をしましたわ」
 ネティスはベッドの上で弟の無礼を詫びた。
「ウィズルの気持ちもよく分かる。それにワシとてなんとかネティスの命を延ばしてやりたいのじゃ…。じゃが、如何せん年老いたワシにはそれほどの力は残ってはおらん。本当にすまん、ネティス…」
「姉さん…」