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八峰零時のハジマリ物語 【第二章 015】

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  【015】


――日が明け、次の日の朝。
 零時は早々と支度をし、家を出た。
 すると、通学途中、突然、後ろから声を掛けられた。

「おはよ、零時くんっ!」

 声を掛けたのは舞園利恵だった。
「舞園……どうしたんだよ? 何かあったのか?」
「?……どうして?」
「いや、こうやって通学途中に現れたってことは何かあったのかな……て」
「べ、別に何もないよ……家から学校行くにはこの道を通るから、それなら零時くんと一緒に通学……しようかな、て」
 舞園理恵は少し頬を染めながら小声で答えた。
「えっ? 何?」
「あ、ううん……な、何でもない。ほらっ……あの……マリアが、さ……零時くんとは、できるだけ一緒にいたほうがいろいろと都合が良いから、て言うから……」
 舞園利恵は、とっさに「マリアが……」という「特権」を利用して説明した。
「マリアが? ふーん、そうなんだ」
「そ、そうなの……」
「まあ、マリアがそう言うなら……それだったら明日から登校は一緒のほうがいいってことか……」
「あっ! う、うん。そういうことになる……ね」
「そうか~、わかった。それじゃあ、明日からここで待ち合わせて一緒に行くか?」
「わ、わかったっ! い、一緒に行きましょう、これから、学校へ、零時くんと、一緒に……ね?」
 舞園利恵は事態が思っていたよりもプラスの方向へ転じたので、逆に動揺していた。
「だ、大丈夫か~? 舞園~」
「だ、大丈夫。オール・モーマンタイよっ!」
「オール・モーマンタイって……意味が被ってるぞ」
「ハ、ハハッ……そう、ね」
 舞園利恵は至福の時にいた。
「ある男」に声をかけられるまでは……。

「れ、零時ーっ!」
「!……おお、遊馬。おはよう」
「そ、その横にいる『物体』は……何?」
「ぶ、物体って……舞園利恵だよ、一組の。前にお前も教室で見ただ……」
 すると、遊馬は零時の説明の途中で舞園利恵に詰め寄った。
「何だ? 何なんだ君は? なんで朝の登校時から零時と一緒に横に並んで、歩いてイチャイチャとまったく何なんだ、このうらやまくやしいー、この泥棒猫がーーーっ!」
「お、おいっ! 遊馬! 言っていることがグチャグチャだぞ」
「れ、零時くん……な、何ですか? この人?」
「お、おう。こいつは葛西遊馬……俺の中学からの友達だ」
「違うっ! ボクと零時は……恋人同士だっ!」
「何でだよっ!」
「えっ? そうなの? 零時くん?」
「そんな訳あるかっ!」
「そ、そんな……零時、それじゃあ、ボクとのことは……遊びだったの?」
「何を言ってるんだ、お前はっ! 変な言い方するんじゃねーっ!」
「遊馬くんは零時くんのことが好きなの?」
「おい、舞園! お前まで……」
「ま、まあ……そういうこと、かな?」
 頬を染めた遊馬がそこに在った。
「あーもーいいかげんにしろーー遊馬ーーーっ!」
「れ、零時が本気で怒ったーっ! じゃ、じゃあボク、先行ってまーす。おい、そこの女っ! ボクはまだ許したわけじゃないぞっ! いいなっ?」
「遊馬ーーーーっ!」
「は、はーーいっ! ごめーーんっ!」
 と、遊馬は零時のマジギレ寸前の空気を察し、一目散に学校へと走っていった。

「わ、悪ぃー舞園。ビックリしたろ?」
「う、うん、少し……はは。でも、零時くんのこと本気で好きなんだね、遊馬くんって……」
「お、お前まで何言ってんだよ……い、いいかげんにしろっ!」
 零時は舞園利恵の以外の返答に少し動揺した。
「ふふ……ごめんね」
「まったく……何なんだよ、朝っぱらから」
「……わたしも……負けられないな」
「んっ? 何か言ったか~? 舞園~」
「う、ううん。何でもないっ!」
「??」
 舞園利恵は満面の笑みで返事をした。

 学校へ行くと校門のところで、周りからヒソヒソ声が漏れてきた。
 その声には「舞園利恵」の名前が聞き取れた。まあ、要するに……、

「舞園利恵と一緒にいるあの男は何者だ?」

 といった感じだろう。

 すると、そこでさらにバツの悪いことにある「バカ野郎」が声をかけてきた。
「おーっす、零時ー! えっ? あれっ? 何っ? その横にいる美少女は? えっ?……舞園利恵っ! 何? 零時、お前ら二人、付き合ってんの?」

「「「「「「ええええーーーーーーーーー!!!」」」」」」

 高志の言葉に周囲の生徒が一斉に反応した。
「バ、バカか、お前はっ! 何、変な事、大声で言ってんだよっ!」
「えっ? だから~お前と舞園利恵は付き合って……」
「わぁーー二度も言うな、このバカ! そんなわけないだろっ! それよりも、お前、空気読めよ」
「空気……?」
 と、ここでやっと高志が周りの生徒が皆、こっちを向いて聞き耳を立てていることに気づく。
「あ、ああ……何、秘密ってこと?」
「そうじゃねーつってんだろっ!」
 と、零時は思いっきり高志にゲンコツをお見舞い……高志はその場で失神した。
「わ、わたし……先行くね。ま、また帰りに」
「お、おう……」
 舞園利恵は、周囲の生徒をかき分け、校舎へと入っていった。
「痛てて……零時くん、君は加減というものをもう少し知るべきだよ……」
 高志は、頭をさすりながら起き上がった。
「お前はもう少し発言に気を遣え……ったく」
 零時は、「はぁ~……」とため息をついた。

 教室に入った零時と高志を待っていたのは、怖い顔をした遊馬だった。
 零時は朝のいきさつの件を遊馬から問われたが、いろいろとごまかして難を逃れた。
 そうこうしている内にチャイムが鳴り、HRがはじまった。
 HRでは、俺が襲われた「通り魔事件」の話を少ししつつ、下校時は気をつけるように……という連絡だった。
 ちなみに、「通り魔事件」の被害者が俺だと言うことは誰も知らない。理由は、俺はあの時、あの場にいなかったことになっているからだ。
 その辺は、シッダールタがうまくフォローしたようで、両親や遊馬・高志には、病院で俺の意識が無い頃に身体を利用して説明したとのことだった。ちなみに

――一時間目 授業は「体育」。

 俺たち男子は外でサッカーだった。
 朝一で外でサッカー……なかなか一時間目からハードな内容だった。
 まあ、そうは言っても「健全な男子高校生」……いざ、始まってしまえば、皆、すぐに「バトルモード」へと展開し、一気にテンションは上がっていた。

 体育は、三組・四組合同で行う。

 そしてサッカーのチーム分けをしたのだが四組との話し合いの結果、「親睦を深める」という一環で、ごちゃまぜにしてチーム分けをしようということになった。
 そして、俺は高志と遊馬とは別々のチームとなった。

――試合開始早々、俺は相手からボールを奪い、そのままドリブルで中央突破を図った。

「おらおらーーっ!」
 俺は一人抜き、また一人抜きと、一気にゴールまで駆け上がろうとした……が、ここで前に立ち塞がる男がいた。
「ここまでだ……零時っ!」
「……高志」
 俺の目の前に立ちはだかった「三人目の男」は……高志だった。
「ふんっ。サッカーでは、まだまだ……俺のほうが上だぜー、零時ーっ!」
 と言うと、高志が俺にするどく突っ込んできた。