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漢字一文字の旅  第三巻

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十三の二  【庭】



【庭】、字の中にある「廷」(てい)は、壁で区画した宮中の儀礼を行う場所のことだとか。
それに建物の形の「广」(げん)が被せられ、「にわ」の意味になったそうな。いずれにしても【庭】は儀礼を行う場所のこと。

それなのに「家庭」に「校庭」、粛々と儀礼が執り行われてるとは思えない。
「裏庭」なんて、もっと関係ないぞ。隣のニャンコがオシッコしてるだけ。

それでもだ、【庭】でする球技は「庭球」、つまりテニスだ。
えっ、【庭】って、そんなに広かった?
日本では、蛙が棲んでたら、それだけで広い【庭】なのに。

さて、時は約100年前の1920年(大正9年)。
ウインブルドン大会で清水善造選手は米国のW・T・チルデンと対戦した。
そしてゲーム中、チルデン選手が転倒。
これを見た清水選手は、相手が立ち上がり、打ち返せるようなゆるいボールを送った。
これは立派なスポーツマン精神によるものと、戦前、戦後の教科書に載った。今も年配の人たちの記憶に美談として残っていることだろう。

筆者も、小学3,4年生の頃だったと思うが、習ったことを憶えている。
されども現代の常識でいくならば、ここはチャンス、バシッと打ち込むのがベストだ。
一旦コート上に立ったならば、ズルすることなく、勝利することにトコトン執着する。そんな姿勢こそが真のスポーツマンシップであり、美しい。
それにしても、1世紀の時を経て、随分と価値観が変わったものだ。

その現代型スポーツ美を具現化しようとしているのが、錦織圭。
テニス4大大会の一つの全豪オープンテニス2015で大活躍だ。
必殺技はもちろん――エア・ケイ。
跳び上がり、そして空中に長く留まり、フォアハンドのジャックナイフショットを一振り。
身長が178センチとテニス界では小柄な錦織があみ出した切り札だ。
胸がスカットするほどの感動を覚える。

とにかくテニスは「庭球」、儀礼を行う【庭】での球技。
しかし今は、漢字【庭】を超え、「圭球」となったと言える。

追記
錦織圭の「圭」は、天子が諸侯の身分を証明するために授けた圭玉(けいぎょく)の形だそうな。