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漢字一文字の旅  第三巻

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十五の六  【蜂】



【蜂】、虫偏に(ほう)という漢字。
なぜ(ほう)なのか?
群がり飛ぶ蜂の羽音、それがホーと聞こえるからだ、とか。
えっ、そんな安直なの? と首を傾げるが、以前に紹介した「蚊」も同じだった。
ブーンと飛ぶから虫偏に「文」。文学とは関係ない「蚊」となる。

なんやねん、この他愛なさ! と唸ってみたが、それでも他に、同類の漢字はないかな? と。
この際だから調べてみたら、やっぱりあったのだ。

「鳩」(はと)はクーと鳴く。
だから「九」と「鳥」の組み合わせで――「鳩」。

「鴉」(からす)はガーと鳴く。
だから「牙」(が)と「鳥」の組み合わせで――「鴉」。

「猫」は中国ではミアオと鳴くらしい。
だから獣偏に「苗」(miao)で――「猫」。

漢字って、結構適当に出来上がってんだと再認識するしかない。
そして、ここは話しを元に戻して、【蜂】。

女王蜂を世帯主とした蜂一家、一般的には働き蜂もメスと言われ、典型的な女系家族だ。
されどもオス蜂はいる。ならば……、どこに?
ということで、ここで『オス蜂物語』を、ちょっと長くなることをご容赦願い、一つご披露とさせてもらいます。

村外れに、ミツコ女王が仕切るミツバチの家族が住んでいました。
ミツコの周りには子供たちで溢れています。
それは数万匹のメスの働き蜂たちです。
すなわちミツコの体内に貯蔵されていた精子で、ミツコが順次受精させ、産んだ子供たちです。
今ではすっかり成長し、毎日花の蜜を持ち帰り、甲斐甲斐しく働いてくれています。

季節は春から初夏へと。
キラキラと輝く太陽の下、数万匹の働き蜂に比べまったく数が及ばない、たった数百匹だけの男の子を、ミツコは産みました。
しかもミツコは体内に保存してある精子を使わず、未受精卵からの出産です。
したがって、オス蜂には父親がいません。
ただただミツコのDNAだけを引き継ぐ、それはそれは純な男の子たちです。

そしてその中にハチオがいました。
男の子、いや弟って意外に可愛いものなのか、ハチオが生まれると同時に、働き蜂のお姉さんたちが次から次へと蜜を持って来て、食べさせてくれます。
いわゆる過保護。こうしてまったく苦労知らずに大きくなって行きました。

ああ、それにしても暇だ。俺にも何か家族のために貢献させてくれ!
ハチオがこんな呟きをするのも当然です。仕事がないからです。
朝から晩まで巣の中でプラプラとしてるだけ。これじゃまるでヒモか居候だ!

そんなある日のことです。寝起きからハチオの血が騒ぐじゃありませんか。
なんで?
ハチオには訳がわかりません。
しかし、これが神のお導きということなのか、大空へと飛び立ちたい衝動に駆られたのです。

うーん、もう辛抱できないぞ!
ハチオは巣から出て、天空へと羽ばたきました。
するとどうでしょうか、上空に多くのオス蜂たちが集まっているじゃありませんか。
何か面白いことでも起こるのかなと思い、「俺も仲間に入れてくれよ」とハチオも輪の中へと入って行きました。

そんな時です。
どこかの巣から飛んで来たのでしょう、それはそれは可愛いメス蜂が……。
透き通った羽のしなやかさからして、まだ羽化して1週間も経っていないでしょう。
そう、彼女こそ――プリンセス蜂。
そんな美姫蜂が輪の中へと飛び込んで来るじゃありませんか。
びっくりです。
もちろん独身オス蜂たちは興奮が抑えられません。
オス蜂たちはこのプリンセス蜂とぜひ結んでみたい、その一心で飛びかかって行きました。

もちろんハチオも例外ではありません。
しかし、このプリンセス蜂、ニューミツコは結構選り好みがきつくって……。
「あんた弱そうだから、ダメ!」と容赦なくオス蜂をどんどん撥ね付けて行くじゃありませんか。

ハチオも1回ぶっ飛ばされました。それでもハチオは必死のパッチで訴えました。
「僕はそれはそれは強い新鮮な精子を持ってます。だから僕と結婚してください」と。
この真剣さにニューミツコは感じるところがあったのでしょうか、「1回だけだけど、あなたのDNAを頂くわ」と若い身体を差し出してくれました。

こうしてまったく血筋の違うハチオとニューミツコは結ばれたわけです。
結果、ニューミツコはまったく近親ではないハチオの精子を腹に蓄え、新女王蜂の冠を被ったのでした。
しかし、ハチオはキングにはなれず、結婚はここまででした。

「私は姑さんとは一緒に暮らせないわ。さっ、あなたはお母さんの巣、ミツコ女王のところへお戻りなさい」
ニューミツコは冷たくハチオを促しました。
「えっ、俺はもう用なしかい。そんなアホな!」
こんな文句を言うハチオを見捨て、ニューミツコは新女王にふさわしい巣を築くため、さっさと飛び去って行きました。
ハチオはその後ろ姿をただただ目で追うしかなかったのです。

「あ〜あ」
ハチオがため息交じりで古巣に戻ってくると、ちょっと変。
あれだけ優しかったお姉さんたちがハチオに出て行けと噛み付いてくるじゃありませんか。

「それにしても、俺は何のために生まれ、何のために生きて来たのか?」
こんな忸怩たる思いを抱きながら外へと飛び立ったハチオ、もう力は残されていません。
「もうすぐ死ぬのだろうなあ」と予感がする。
そんなハチオに夏の太陽が囁くのでした。
「ハチオ君、いいじゃないか、新女王が君のDNAを引き継ぐ何百万匹の働き蜂、そう、君の娘たちをこれから産むのだから」

これにちょっと気分を直したハチオ、見上げれば、モコモコと入道雲がわき上がっていました。
「うん、そういうことだったのか」
ハチオはどことなく納得し、ホーと最後の羽音を高鳴らせ、雲へと飛び込んで行ったのでした。

これが虫偏に(ほう)という字を合わせた――【蜂】という漢字だそうな。