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正しいフォークボールの投げ方

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『さてと、なんで私がこうして現れたのかは……。まぁ、ウスウス気付いていると思うけど……実はココ、君がいた世界とは別の世界みたいなんだよね……』

「へっ?」

 野球の神様の衝撃的かつ理解不能の発言に呆然とするも、その言葉の真意を確認する。

「別の世界、というのは?」

『いわゆるパラレルワールド(並行世界)とか異世界ってやつ。ほら、マンガやアニメとかでよくあるでしょう。現実の世界とよく似たような世界が、別次元にあったりする』

「ええ、まぁ……」

 人並みにマンガなどは嗜んでおり、パラレルワールドが何であるかは理解してはいるが、

『それが、ここみたい』

「はっ?」

 意味が解らない。というより、理解の許容範囲を遥かに越えてしまっている。いや、指摘された通り、そこはかとなく勘づいていたが理解したくなかった。

『ほ、ほら。人を甦させるなんて初めてだったし、ちょっとミス……じゃない。初めてのことは、大体トラブルやイレギュラーは起きるもんよ!』

 仕方がなかったと、野球の神様は弁明する。

「な、なんで生き返させたら、別の世界なんかに……」

『その理由は、流石の私(神様)でも解らないの。ゴメンね……。人間を蘇生するなんて、物凄く超常なことだからね。それに伴って超常的なことが起きても、変じゃないわよ』

 野球の神様ではあるが、神様は神様である。その神様ですら解らないことが、ただの人間であるヒロが解るはずが無くて当然だ。

「まぁ……生き返せてくれたくれたのは、ありがたいと思っていますが……。それじゃ、元の世界に戻してくれませんか?」

 生き返させてくれたのなら、元の世界に戻すことぐらい出来るだろうと軽く考えていた。そんなヒロの発言に、野球の神様は笑顔で首を傾げてしまった。その態度にヒロは察した。予感したことに青ざめつつ、震える声で問い掛ける。

「えっ!? ま、まさか……戻れないんですか?」

『うん、あ……。戻してあげたいのは山々なんだけど、今すぐは無理かな〜』

「今すぐは、ってことは、戻ることはできるんですか?」

『そうね。君が、この世界で“野球”で活躍したりして、貢献したらね!』

「へっ?」

 またしても不可解な言葉に呆気に取られ、言われた言葉を繰り返す。

「野球で活躍? 貢献? な、なんでです?」

『一応、私は神様でしょう。で、神様って奉られる存在で、奉られてなんぼの存在でもある訳。ここまでは解ってくれている?』

「ええ、まぁ……」

『それで、奉られてこそ私たちの力にもなって、奉じてくれた方にある程度、還付することが出来たりするのよ。そうしながら、人間と神は付き合っているのよね』

「はぁ……」

『さて。君、私は何の神様だったでしょうか?』

 何度も紹介されたり、精神洗脳まがいなことも受けたので、目の前の人物が何者かは当然知っている。

「それは野球の神様ですよね」

『そう。つまり、野球の神様が求めることは、何か解るわよね?』

「それは、野球ですよね」

 ヒロの答えが正しかったのか、野球の神様は満面の笑顔で返す。

『オッケーイ! そう。野球の神様に奉納するべきものは野球。そして、君に求めることは、君が野球で活躍することが奉じることになって、私の力となり糧となるのよ』

 言いたいことは解った。しかし、

「だ、だからって、なんで自分が野球をしなくちゃいけないんですか?」

『君を甦させた時に、非常に膨大な神通力って言う、パワーを使っちゃたのよ。もう空っぽでね。それで、そのパワーを回復するために野球を奉納して欲しい訳よ。それで奉納してくれる相手は、当の本人であれば、尚の良しよ!』

 これまでの話しをまとめて、自分なりに解釈すると。

「……つまり、自分が野球をすることで、神様の力を回復することが出来て、力が回復すれば、元の世界に戻れる……戻してくれるってことですか?」

『オッケーイ! その通りよ!』

 野球の神様の真意を理解したが、今ひとつ付いていけていなかった。理由としては、これまでの展開が急過ぎるのもあるが、いきなり野球をしろと言われても中学の体育授業でやったソフトボール程度で、本当の野球はやったことは無い。

 少し前に野球は楽なスポーツだと思っていたりしたが、簡単なスポーツだとは思ってはいない。当然ヒロは、困惑するしかなかった。

 そんなヒロの気持ちなんか露知らず、野球の神様は話しを続ける。

『幸い、この世界には野球が在って盛んみたいだし、君が元いた世界とよく似ているからそんなに心配しなくても大丈夫よ』

「あ、いや、そういうことじゃなくて……」

 ヒロと野球の神様の会話の途中で保健室の扉が開けられ、一人の女子が入ってきた。

「あ! あなたがグランドで倒れていた人ね。どうですか、体調の方は?」

 その女子をひと目見て、ヒロは驚きの顔を浮かべて思わず呟く。

「橘、沙希ちゃん……!?」

 保健室に現れた女子の顔や髪型や姿などの見た目が、元の世界で野球部のマネージャーでヒロが密かに想いを寄せている橘沙希にそっくりだったのだ。違いがあるとしたら、眼鏡を掛けているぐらいだろうか。

「え! どうして、私の名前を? どこかでお会いしましたか?」

 偶然にも名前までそっくりだったようだ。
 見ず知らずの相手から、突然自分の名前を呼ばれて驚く沙希。不審に思い、歩み進めていた足を止めた。

「あ、いや。その……」

(どういうことだ?)と、そう頭の中で思い浮かべると、

『パラレルワールドだからね。他人の空似でしょう』

 野球の神様が答えてくれた。しかも、この声はヒロだけにしか聞こえていないようで、神様の姿も橘沙希に似ている女子には見えていないようだった。

(そうなんですか?)

『間違いなくココは、君がいた世界じゃないからね。まぁ偶然、似た子が居てもおかしくないでしょう』

 野球の神様の言葉にヒロはなんとなくだが納得し、訝しげの眼差しでこちらを見ている沙希の誤解を解くことにした。

「あ、ごめん。自分の知っている子にそっくりだったから……」

「そ、そうなんですか……。でも、どうして、私の名前も?」

「そういえば名前も……。君も橘沙希って言うの?」

「はい。私の名前は“タチバナ沙希”です。貴方の知り合いの人も、タチバナ沙希って言うんですか?」

「う、うん……」

 相槌を打ちながら、野球の神様に語りかける。

(こういうことって、あり得るんですかね?)

『ん〜。珍しい名前って訳じゃないから、有り得るんじゃないの。現に、君の世界でも同じ名前はいたりするでしょう?』

 本杉陽朗――未だかつて、自分と同じ名前どころか苗字すら同じ人に会ったことは無かったが、今はそれに留意する時では無い。

(まぁ、そうだと思いますけど……)

 橘沙希にそっくりで、しかも同じ名前。これは偶然では片付けられない、一種の奇跡だとヒロは思った。それは沙希に似た女子も同じ気持ちだっただろう。

「その人も同じ名前なんですか。すっごい偶然ですね」

「うん。自分もそう思うよ……」

「そういえば、あなたのお名前は?」