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正しいフォークボールの投げ方

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第四球 要は、スッポ抜けろ! -2-



 ヒロは四六時中、球を指に挟んでいた。朝の自主練が終わった後、学校で授業を受ける時も食事をする時も、ズボンのポケットに球を忍ばせて挟み続けていた。周りの生徒からの訝しげな視線を極力気にすることはなく。

 その日の放課後、恐る恐ると四日ぶりに野球の練習に出たが他の部員から休んだことに関して、特に何も言われなかった。それが非常に不気味に思えたがイナオたちの執り成しが有ったらしく、ヒロは再び大府内高校野球部の一員として迎えられたのであった。それでも他の部員の態度は冷たかったが。

 野球の練習での、キャッチボールの時もフリーバッティングの打撃投手を務めた時でも、フォークボールを投げ続けたのであった。

 ヒロが練習を再開してから二週間が経過し、球を挟んでいた時の痛みを感じなくなっていた。挟むことには慣れてきたが、未だ入部テストの時に投じたフォークボールの変化をさせることが出来なかった。

 フォークボールを習得していないヒロは、試合に登板することは無かった。その間、二回ほど眞花が観戦にやってきてくれたが、残念な思いをさせてしまった。

 しかし、あの時みたいに不甲斐無い投球をしない為に、そして眞花に正しいフォークボールを見せたいが為に、ヒロは諦めることも挫折することもなく、練習を積み重ねていった。それは数少ない休日でも変わらなかった。

 ヒロは休みの日にも関わらず、一人グランドに立ち、汗を流していた。
 いつもの通りにトルネード投法でフォークボールを投じるものの、落とすということに意識をし過ぎた為に、真っ直ぐとホームベースに向かい、バウンドしてしまう。

 小さく萎れるヒロ。投げれば投げるほど、球は落下しなくなっていたことに気に留めていた。だが、投げるて覚えるしかなかったのだ。

 球を手に取って投じようとすると、

「おーい、今日も頑張っているな」

「あ、イナオさん」

 イナオは前に試合観戦に行った時と同じような格好していた。やっぱり何度見ても、日曜日のお父さんの容姿(スタイル)である。

「休みなのに、精が出るな」

「一日でも一球でも多く投げて、早くフォークボールを投げるようになりたいですから」

 初登板の結果に凹たれていたヒロとは別人のようになった言動に、イナオは思わず笑みがこぼれてしまった。

「そうか。でも、まぁ定期的に休憩を取れよ。それに肩とか肘とかは痛くなったりしてはいないか?」

「いえ、全然大丈夫ですよ」

 ヒロは大きく右腕を回し、無事であることをアピールした。ほぼ毎日投げてはいるが痛みや違和感などは無かった。

 それを聞いてイナオは安心する。頑張り過ぎて身体を壊すことはよくあることだ。どんなに優れた丈夫な投手でも怪我などの故障をしたりする。ましてや、もしここでヒロが故障してしまったら、今までの努力が水の泡となり、また気落ちしてしまっては目も当てられない。

「そうか。それなら良いが……。よし、モトスギ。ただホームベースに向かって投げるのも味気ないだろう。俺がキャッチャーをやってやるよ」

 既にイナオの手にはキャッチャーミットを持っており、ヒロに見せびらかす。

「そんな、いいですよ。貴重な休日なのに……。特にイナオさんは休養しないと」

 ちなみにこの二週間で六試合が行われており、その内イナオは四試合に登板している。

 この世界ではエースと呼ばれる投手は連投をするのが当たり前の習慣があり、大府内高校のエースでもあるイナオも例外ではないのだった。

「別に構わんよ。頑丈だけが取り柄なんだ。それに、こう見えても中学時代はキャッチャーだったんだ。遠慮無く放り投げてこい」

 ホームベースのネットをどけて、イナオは腰を落としてミットを構える。その姿が妙に似合っていた。他の高校でもイナオの様な体型……豊かな肉付きの人が勤めているのが多い。

 ヒロは言われるがままにイナオのミットを目掛けて、フォークボールを投じる。だが、ワンバウンドしたり、大きく外れたりするものの、イナオは難無く捕球する。経験者ということは嘘では無かった。

「モトスギー! またボールが回転しているぞ。フォークボールは無回転じゃないといけないんだろう!」

「は、はい!」

 イナオの忠言を心に留めて投げていくが、球は変化することは無かった。

「なんで落ちないんだろう……」

 変化しないことに思い悩むヒロ。イナオから投げ返された球を指で挟み、フォークボールの握りのまま見つめた。暫し沈黙が生まれる。

 球を挟む位置を深くしたり浅くしたり、球の縫い目にかけたりかけなかったりと様々な試行錯誤をしているが結果は伴わなかった。

 変化球を習得するということは、簡単だったり難しかったりする。習得度合いは人それぞれである。しかしフォークボールは、この世界に存在しなかった変化球である。野球の神様が姿を現さない今となっては、ある意味、新しい変化球を生み出そうとしていることに等しかった。

 黙っているだけでは何も起こらない。ヒロは投球を再開し、振りかぶろうとすると、

「イナオ先輩、モトスギくん! お昼にしませんかー!」

 突然の呼びかけの主は沙希だった。手には前の試合観戦の時に持っていた手籠を掲げて、グランドに入ってきたのである。

 ヒロたちは沙希の登場と腹の空き具合で、お昼休憩となった。

「美味い!」

 サンドイッチを頬張るヒロとイナオ。具材はツナマヨだった。だが、ただのツナマヨサンドではない。パン生地と具の間にレタスが挟まれているが、このレタスがシャキシャキしている。

 出来立てである証拠だ。沙希は寮の食堂の台所を借りて、作ってきたのだった。また、マヨネーズだけを合わせただけではなく、マスタードやウスターソースなどの様々な調味料を混ぜて、味にアクセントを付けており、飽きさせない且つ味の相乗効果を生み出し、いくらでも美味しく食べられた。そして、イチゴジャムが塗られたサンドイッチもありデザートのように味わったのだった。

 食事を堪能したところで、沙希はお茶を注いだコップをイナオに手渡しながら訊ねる。

「どうですか、フォークボールの方は?」

「まだ全然だな。無回転の頻度は増えてきたが、あの時のように中々落ちなくてな。それにコントロールの方も、ほとんどがボールに聞いてくれ状態だもんな」

 聞き耳を立てていたヒロは、肩をガクっと落としてしまう。折角の沙希の手作りサンドイッチの味が彼方に消え去るようだった。

「そうですか……。そういえば、イナオ先輩は変化球を投げる時はどうしてるんですか? モトスギくんに何かヒントになるようなことはないですかね?」

「ヒントか……。オレが投げられる変化球は、スライダーとシュートだからな。参考になるかどうか解からんが、投げ方はこうだ」

 イナオは側に落ちていた球を手に取ると、球にある縫い目に人差し指と中指を並べて握る……直球(ストレート)を投げるような握りをして見せた。

「それって……ストレートの握りですよね」

 沙希が確認を取るように念の為に訊いてきた。イナオは頷き、さらりと述べる。