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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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「リュリュ様がそんな小さなことにこだわるわけないだろう。大体、コボルト、ゴブリンだけではなくケット・シーまで嫌っている人間なんて、ほとんどが老人だ。この先の戦いのことを考えれば、ケット・シーと仲良くすることはお互いにとって決してマイナスにはならないはずだ。それは君を見ていてもわかる。」
「お、アタシってば意外と高評価を頂いてるみたいだにゃあ。まあ、それは嬉しいんだけど・・・一つご注進。」
「なんだ?改まって。」
「アタシにしても、あの娘にしても、ケット・シーに肩入れし過ぎるのはあまりオススメしないよ。」
「亜人アレルギーの人間のことか?そんなもの、互いの理解を深めればきっと・・・」
 信頼関係を築ける。そう続けようとしたアンジェリカの言葉を遮ってメイが口を開く。
「この間も思ったけど、アンジェって本当にお嬢様というか、楽観主義の貴族様だよね。いいかい?ケット・シーにだって悪い奴はいるし、悪いことをしようと思った時、アタシ達の変身能力って奴は非常に役に立つ。」
 そう言ってメイはエーデルガルドそっくりの姿へと変身した。
「例えば今ここでアタシがあんたを殺しでもすれば、リシエールとグランボルカは決裂するだろうね。」
「君はそんなことしないだろう。」
「ああ。アタシはしないよ。でも、あの娘はどうだろうね。」
「しないよ。」
「どうだかね。」
「しない。帰るぞ、メイ。」
「あ、ちょっと待ちなさいって。まだ話は終わってないんだからね。」
「ふむ・・・。しかし君はフェイオに対して異様に敵意を持っているというか・・・ひょっとして、嫉妬か?」
「は・・・はぁっ?何いってんのあんた。なんで女のあたしが、あいつにアンジェを取られるとかそんな心配しニャきゃいけニャいのよ!」
「ははは、こんなところでヘクトール殿と肩を並べることになるとは思わなかったが、ある意味光栄とも言えるか。」
「だ、だから。あたしは別にアンジェのことなんかなんとも思ってニャいんだからね!」
「わかったわかった。よし、今日は久しぶりに二人で呑むか。うん、そうだそれがいい。そうしよう。」
 アンジェリカはそう言って上機嫌で歩き出す。
「ちょ・・・こら!話は最後まで聞きニャさいよ!」
「とは言え、だ。私は別に貴族の道楽や楽観主義でフェイオを迎え入れようというわけではないのだぞ。この先の戦いにはケット・シーやエルフ達の力を借りなければならない局面もでてくるだろう。そういった場合に彼らの性質を知っているのと知らないのとでは、打てる手が全く変わってくる。悪い言い方をしてしまえば、私はケット・シーであるフェイオを観察して、ケット・シーと友好的な関係を結ぶためのきっかけを掴みたいと思っている。」
「アタシがいるじゃん。」
「メイはなんというか俗・・・いや、人間社会での生活が長いせいか人間らしくなり過ぎていると思うのだ。」
「今飲み込んだ言葉は、アンジェが大切に隠し持っている地下のワインセラーの一番奥のワインで聞かなかったことにしてあげるにゃ。」
「はあ・・・そういう所が俗っぽいというのだ・・・。」
「ハッキリ言うにゃ!」

 アンジェリカと話をした夜。フェイオの元に馴染みの客がやってきた。フェイオは数居る客の中でも彼にだけは自分の身の上を明かしており、彼が来ている時だけはケット・シーとしての本当の姿で居ることができていた。
 この客はリシエールの下級騎士でアンジェリカよりも先にフェイオに身請けの話を持ちかけてきた男である。もちろん、アンジェリカのような使用人としてという話ではなく、妾としてという事での話ではあったのだが。
 フェイオはこの馴染みの客との事が終わったあとで、以前からこの客に言われていた割の良い仕事について切り出した。
 すると客は一瞬驚いたような表情を浮かべながらも。すぐにニヤニヤとした表情で口を開いた。
「おお、ついに俺と一緒になってくれる気になったのか?」
「そういうわけではありません。ただ、少し。早めに足抜けをしたい事情ができてしまいまして。」
「なんだ、他の男か。」
 つまらなそうにそう言う客の言葉をフェイオは首を振って否定した。
「いえ!・・・男性ではなく、女性なのですが。」
「お前、そっちの趣味があったのか。」
「そういうことではなくて。その・・・私に働かないかと言ってくれる方がいらっしゃって。できれば、働きたいな・・・と。」
「働きたい?変なこと言うなあ。俺の妾になれば、遊んで暮らせないまでも楽な暮らしはさせてやれるんだぞ。」
「楽をしたいわけではないんです。私のようなケット・シーが言うのは生意気なのかもしれませんが。その方の話を聞いて・・・人並みに働いて、人並みに暮らしてみたいと。・・・少しだけ、思いました。」
「ふぅん・・・俺がいくら言っても足抜けをしようとしなかったお前の気持ちを変えた女ってのがどういう奴か気になるが。足抜けをするだけなら、俺が金を建て替えてもいいんだぜ。働き口があるなら後から払ってもらったって構わない。」
「それは・・・。」
「わかってる。嫌なんだよな。」
「はい・・・我儘ですみません。」
「いいさ。お前がここを抜けてくれれば俺も毎日ヤキモキせずに済むしな。」
「ヤキモキ・・・ですか?」
「ああ。お前が他の男と寝てるのかもしれないと思うと居てもたっても居られなくなるんだ。かと言って仕事をサボるわけにもいかないから四六時中ここに居ることもできない。まあ、惚れた弱みってやつだ。よし。上司に話を通そう。」
 照れくさそうにそう笑いながらそう言って男は身体を起こした。
「よろしいんですか?ここを抜けても私はあなたのものにはなりませんよ。」
「まあ、それならそれで、アタックし続けるだけだよ。」
 男はそう言ってフェイオの肩に手を回すと自分の方へと抱き寄せた。